国会議員とNPOが連携し自殺対策基本法(仮称)で遺族支援を
2006/04/23
日本では、98年から7年連続で年間3万人が自殺しています。昨年7月、参院厚生労働委員会が自殺対策を求める決議を行い、政府は同12月、関係省庁が連携し、15年度までに自殺者を2万5,000人前後に減らすことを目標にした総合対策を発表。厚労省は3月31日、自殺防止を推進するため、相談体制の充実などの取り組みをするよう都道府県と政令市に対し通知を行いました。
今回の通知は、「自殺は社会の問題」とする政府の総合的な対策を受けた初めての措置です。今後、東京のNPO法人が超党派の国会議員に連携を呼び掛け、自殺対策基本法(仮称)の制定に向けた活動が始まります。新法には「自殺対策は国と自治体の責務」と明記し、一人でも多くの命を救うことを目指します。
新法が想定する内容は、○効果的な予防策のために自殺の実態調査、○個人だけではなく、社会全体を対象にした総合対策、○自殺未遂者や遺族への支援――などで、社会問題が原因の「不本意な自殺」は、適切な社会対策さえ講じられれば「避けられる死」と位置づけるとみられています。
こうした動きの発端は、昨年5月、NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(清水康之代表)が東京・永田町の参院議員会館で「自殺を防ぐために何ができるか」をテーマに開いたシンポジウム。尾辻秀久厚生労働相(当時)や衆参両院議員ら200人以上が参加、遺族の体験や市民団体の取り組みを聞いた尾辻厚労相は「できることはすぐやる」と発言していました。
ライフリンクの今後の具体的な活動としては、法制化を実現させるため、全国で3万人署名を展開。交流のある約30の市民団体に協力を呼びかけ、5月中にも政府へ署名簿を提出し、早期の法制化を訴えていきます。
一連の動きの中心ともいえるライフリンクの清水代表は「自殺対策を確実に推進するには、法的な根拠が必要だ。関心が高まっている今こそ、法制化を実現させたい」と話しています。
私も京都の自死遺族の語り合いの会「こころのカフェ きょうと」のスタッフとして、署名を集めています。ぜひご協力下さい。
↓署名用紙はライフリンクのサイトからダウンロードして下さい。
http://www.lifelink.or.jp/hp/top.html
●全国学校事故・事件を語る会-長崎集会:遺族ら再発防止願う(長崎)
「全国学校事故・事件を語る会」の集会が16日、長崎市で開かれました。約130人が出席。遺族や専門家など9人の発言に耳を傾け、再発防止に向け考えを深めました。
県内では昨年7月以降、中高生9人が自ら命を絶っている。語る会は03年に発足し、約70家族が参加。関西で定例懇談会を開いてきたが、長崎で悲劇が相次いだことから九州初の開催をしたものです。
いずれも子どもが学校での指導後に自らの命を絶ったという5人の遺族は、「学校で何があったのか知りたい」と学校や教育委員会と交渉を続けましたが、事実はほとんど明らかにされず、「指導に問題はない」「家庭や子どもに問題があった」と報告されただけ。事実を知りたくて活動すると、沈静化を望む地域やPTAから孤立させられたケースもあります。「指導で亡くなった子や、同じ経験をしている人がこんなにいることに驚いた」「命を守るはずの学校なのに。危機感があれば、他の命を救えたはず」などの意見が続き、遺族らは第三者機関による事実解明や指導見直しが必要だと訴えました。
04年に同市の中学で生活指導を受けている時に、校舎から飛び降りて亡くなった安達雄大君(当時14歳)の両親が集会開催を提案。発言者として参加した母和美さん(44)は、「学校で何があったのか知りたいが、学校側の都合がいいように事実がゆがめられてしまう」と「指導」の中身についていまだに学校側から納得いく回答が得られていない現状を報告し「1人でも多くの人に体験を伝え、学校で何が起きたのかを検証することで再発防止につなげたい」と呼びかけました。
語る会代表世話人の内海千春さん(47、兵庫県)は「子どもは命を奪われ、人格を奪われ、家族の名誉を奪われる。怒りや悲しみが生活の全エネルギーだった」、「事件に対応するシステムが学校にないのが問題だ。家庭にも問題はあるだろうが、学校は学校として、何があったかを明らかにしなければいけない」と強く主張し真相究明の制度づくりの必要性を訴えました。
県外からの参加者も「教師5人が生徒1人を取り囲んで事情を聴くなど、警察の取り調べのような“指導”で追い詰められた」「人が亡くなっているのに、なぜ『指導に問題はなかった』と言えるのか」と訴えました
学校関連の裁判に詳しい渡部吉泰弁護士は「遺族、当事者が発信して社会に還元していくことが重要」と述べ、神戸大の広木克行教授(臨床教育学)は「長崎の場合、急激な教育改革が背景にある。見えない圧力がかかり、教師の指導の質も変わっている」「学校での生徒指導が取り調べ化し、子どもへの心理的虐待になっている」と指摘し、「子どもの権利を守るための第三者機関設置の動きを長崎から作ってはどうか」と提案がありました。
支援を続けてきた望月彰・大阪府立大助教授(児童養護論)は、「自殺も少年事件も根は同じ。長崎で事件が続発するのは、教育制度を巡る大きな変化が教師や親、子どもに大きなストレスを与えているからではないか。状況を変えるために輪を広めてほしい」と呼びかけました
●引きこもり支援施設変死事件、現場検証(名古屋)
18日、名古屋市北区芳野の引きこもり者更生支援施設「アイ・メンタルスクール」(杉浦昌子代表理事)で入寮中の東京都世田谷区の無職男性(26)が死亡した事件で、愛知県警北署は20日午前、逮捕監禁致死などの疑いで施設内を現場検証をしました。
同日午前9時50分ごろに、捜査員ら約20人が次々と施設内に入り、男性が他の入寮者9人と一緒に住んでいた1階大部屋などを調べ、職員らからも当時の状況を聞いた模様。
施設は、引きこもりや不登校の若者らの社会復帰支援を目的に、98年に設立。現在、10~40歳代の約60人が入寮し、共同生活を送りながら、学校や社会への復帰を図っているといいます。
施設内には2~10人部屋が19室あり、杉浦代表理事自らがカウンセリングに当たり、約10人の職員が入寮者の世話などにあたっていたそうです。
また、この寮施設は杉浦代表理事が代表を務める同名の有限会社が運営し、入寮者にカウンセリングや寮費などとして、月13万円程度を支払わせていました。このため、県は今年1月、NPOと寮施設を区別し、NPOへの相談者らに誤解を与えるような宣伝などしないように指導していたようです。
この日、杉浦代表理事は報道陣の前に姿を現さず、スクール側は取材に応じていません。入寮者らはこの日も普段通り、アルバイト先に出かけるなどしていましたが、報道陣の問いかけに「何もわかりません」などと言葉少なに話すだけで、施設もひっそりとしていたそうです。
県警のこれまでの調べによると、男性は家庭内暴力と引きこもりを理由に、今月14日から入寮。1階大部屋で生活していましたが、17日夜から暴れだしたため、職員が押さえ込んだ末、添い寝をするなどしていたといいます。18日午前8時ごろに、男性が布団の上でぐったりしているのに職員が気付き、病院に運ばれたが、死亡が確認されたもの。男性はこれまでも、奇声を上げたり、暴れたりすることがあり、施設では手足を拘束することがあったといいます。
ひきこもりの青年たち向けのこうした「更生支援施設」は全国に多数あるようです。施設内での利用者の死亡は今回が初めてだと思います。「手足を拘束することがあった」というのには驚きです。人の身体的自由を拘束する行為は、こうした「施設」ではあってはならないものです。この施設のサイト(現在は閉鎖されているようです)を見ましたが、代表がカウンセリングを行う以外は、若い約10名のスタッフが「生活支援」をしていただけのようで、今回亡くなられた男性のケースのようにメンタル面での課題を抱えている利用者への援助体制が整っていたとは思えません。「緊急時は専属の小児科医、精神科医が待機している」と宣伝しいていたようですが、20歳代の男性の入寮者は「そんな医師がいるとは知らなかった」と打ち明けています。
引きこもりは病気ではないものの、うつ病や心身症などを併発することは医学的にも明らかになりつつあります。このため、状態が長期化している場合は、医師による診察を受けることが社会復帰への近道であると指摘する専門家も多くなっています。教育評論家の尾木直樹さんは「暴れるなら医療機関に橋渡しをすべきだった」と疑問を投げかけています。
●ひきこもりの人に県が「居場所」提供/社会参加推進事業(青森)
青森県では今年度から、227万円の事業費を計上して、社会的ひきこもりの人に「居場所」を提供するなど社会参加を進める事業に取り組んでいます。県内にいるひきこもりの人は2,000人と推計され、相談件数は03年度で延べ207件、04年度で延べ244件と増加しているそうです。
ひきこもり当事者の居場所づくりのモデル事業として、県立精神保健福祉センター(青森市三内沢部)などで月2回、当事者の教室を開催。またひきこもり問題を抱える家族を支援するため、同センターで年9回、家族教室を開催。家族会を育成、指導する交流会のほか、市町村や医療、教育機関などが参加する地域連絡会議も開催する予定です。
県は04~05年度、当事者が社会復帰するための調査研究を行い、市町村や保健所の窓口で相談しやすい体制づくりを図り、相談件数が増えて問題が顕在化。家族会や民間支援団体が作られるようになり、今は相互の連携欠如が課題になっているといいます。
行政が対応窓口を持ち、実態を把握しつつ必要な施策を民間と連携しながら取り組むことが求められています。