小さな相談室から(4) 本音を聴く「訪問」
2006/05/01
この間、相談室カンナで1件、家族会ノンラベルで1件、自宅にひきこもっておられる青年への訪問が増えました。いわゆる「第三者の介入」ということになりますが、親が望んで本人の了解なく「土足で部屋に踏み込む」ような訪問は、基本的に意味がないと思っています。最近、名古屋市の引きこもり者更生支援施設「アイ・メンタルスクール」での利用者死亡事件をお伝えしましたが、ここも本人の了解なく無理矢理押しかけ、施設に連れ帰るということが行われていたようです。こうしたケースは人権問題でもあり論外ですが、ひきこもったり不登校や問題行為を起こしている子どもたちが、家庭や学校に求めているもの、自分自身に問いかけているものを聴いてあげる存在として、「第三者」が関わることで確かな変化が生まれることを実感しています。
1件はご本人からの要請で、もう1件はご本人了解の上でご本人も訪問を「意味あるものにしたい」として始まっています。現象面としては、長期にわたるひきこもりや家庭内での家族とのいさかいですが、ご本人の中では「聴いてほしい」「わかってほしい」という気持ちが渦巻き、積もり積もっています。
私の「訪問」援助には、3つのテーマをおいています。1つは、ご本人の思いをじっくりと聴くこと。積年の抱え込まれた思いを時間をかけて吐き出してもらいたいと思います。2つめは、ご本人の思いとご家族の思いとの関係調整です。ご本人の思いをご家族がしっかりと受け止め、理解できる家族関係の再構築をめざしたいと思います。3つめは、聴いてもらえ、理解してもらえる体験をご本人が積まれることで、自己肯定感情を取り戻され、自ら新たな課題を見つけてもらうことです。その意識の変容過程とゆるやかな行動化へ寄り添いたいと思います。
ケースによって訪問の目的や課題は違いますが、「ご本人を尊重する」ことは共通した基本的立場です。これからも「本人尊重」の立場で、相談室での相談・カウンセリング、訪問、学校などへの同行、家族会ノンラベル副代表としての居場所援助をはじめとする活動を展開していきたいと思います。
●優秀な教員に重点配分/08年度めどに給与の一律優遇見直し(文部科学省)
30日、文部科学省は公立小中学校教員の給与を優遇する人材確保法(人確法)について、一定額を一律に上乗せしている現行制度を見直し、優秀な教員に重点的に配分する制度を導入する方向で検討に入りました。教員の評価制度と併せ制度設計を急ぎ、08年度をめどに実現を目指すそうです。
教員の「優秀」さって、何を基準に図るのでしょうか? 教育現場の管理主義が強まることを危惧します。
●思春期の悩みケア/府立洛南病院1日から専門外来など開設(京都府)
京都府の山田啓二知事は28日の定例会見で、5月1日から府立洛南病院(宇治市)に、児童や若者を対象とした心の健康相談窓口と専門外来診を開設すると発表しました。思春期に差し掛かったり、ひきこもりや行動障害で悩む若者や家族を対象に、相談から診察、ケアまで、心の専門家が対応するとしています。
府は昨年6月、ひきこもり支援センター(京都市伏見区)を設置。半年間で500件を超える相談が寄せられ、中には治療を必要とする人も。また、発達障害などへの治療ニーズが高まっていることなどもあり、専門の精神科医を採用して専門外来の開設を決めたものです。
相談は予約制で受け付け、臨床心理士が無料で応対します。面談で治療が必要と判断された場合、医師の診察を受けることになります(有料)。治療後も心理検査や継続面接を実施し、家族らの不安解消に努めるとしています。
京都府は南北に広がる府で、今回の洛南病院での思春期外来は府中・南部を対象としたものです。府北部でのニーズにどう応えていくのか、発達障害支援センター設置の方向性も見えない中で、府の対応の遅れが目立ちます。
●御代田町の高1自殺:「いじめ」損賠訴訟/県側が棄却求める(長野県)
28日、県立丸子実業高1年生だった高山裕太君(当時16歳)の自殺をめぐり、いじめが原因であり、生徒に対する安全配慮義務を怠ったなどとして、母親の高山かおるさん(42)が県などを相手取り、約8,300万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が長野地裁(宮永忠明裁判官)で行われました。県側は答弁書で請求棄却を求めました。
訴状によると、裕太君は昨年5月ごろから、所属するバレーボール部の上級生に、声まねをされたり、殴られるなどいじめに遭いました。精神的に追い込まれて不登校になり、うつ病を発症。同11月には「進級が困難になる」との同校の文書を見て症状が悪化し、同12月に御代田町の自宅で自殺したものです。前途への不安と絶望に駆り立てられての自殺とみられます。
口頭弁論後の会見で、かおるさんは「簡単なことで子供は亡くならない。その気持ちを分かってほしい」と述べました。県教育委員会こども支援チームは「不適切な行為はあったが継続的ではない。うつ病や自殺との因果関係はない」としました。
「こども支援チーム」が、いじめとうつ病・自殺との因果関係はないと、教育委員会を「支援」する口頭弁論。こうした教育委員会の事実を認めない、明らかにしようとしない態度は、全国共通です。「再発防止」の意識が全くないことを表明しているようなものだと思います。