労働経済白書「格差」に警鐘、雇用改善で少子化対策を
2006/07/23
15日、厚生労働省の06年版「労働経済の分析」(労働経済白書)の原案が明らかになりました。少子化の主因を、20歳代を中心に非正規雇用が増え、収入格差が広がったことで若者の結婚が大幅に減った点にあると分析し、若年層の雇用対策の重要性を強調しています。
また、親との同居が多い若年層が、今後、独立していくことで、社会全体の所得格差や格差の固定化につながる懸念があると警鐘を鳴らしています。
白書によると、02年の15~34歳の男性に配偶者がいる割合は、「正規従業員」が約40%だったのに対し、「非正規従業員」や「パート・アルバイト」は10%前後にとどまっています。
また、アルバイトなど非正規雇用の割合を1997年と02年で比較すると、20~59歳まですべての年齢層で増加傾向がみられますが、特に20~24歳の年代で増加率が高く、02年は97年からほぼ倍増し、30%を超えています。
●「貧困層」比率先進国2位 OECDの対日審査報告
20日、経済協力開発機構(OECD)は日本経済の現状を分析した「対日経済審査報告書」を発表しました。相対的貧困層の割合は先進国で2番目とし、「不平等の度合いが増している」と指摘しています。格差拡大は、所得が低い世帯の子どもたちの教育水準低下などを招く恐れがあると懸念を表明しました。
ゼロ金利解除後の金融政策にも言及し、デフレに逆戻りするのを避けるためにも、追加利上げは慎重に判断するよう求めています。主要国の日本経済に対する考え方を示す同報告書は、構造改革への抵抗を強めかねない格差拡大を防ぐよう警告していて、経済政策をめぐる国内の議論にも影響を与えそうです。
国内外の調査報告で、「貧困層」拡大や「格差」拡大が明確となり、少子化や教育条件への対策の必要性が迫られています。「格差」の広がりを事実として受け止め、改善に向けた対策を国はスタートさせるべきです。
●理不尽な親急増、「今すぐクラス移して」…教師に無理難題
「あの子の親と仲が悪いから、今すぐうちの子を別のクラスに移して」「うちの子がけがをして学校を休む間、けがをさせた子も休ませろ」…。保護者が教師に無理難題を言うケースが各地で急増しているようです。教師が頭を悩ますこうした「理不尽な親たち」について、大阪大の小野田正利教授(人間科学、教育制度学)は、文部科学省の科学研究補助金を受けて教育関係者や弁護士、精神科医らによる「学校保護者関係研究会」を発足させ、原因究明と対策に乗り出しました。
持ち込み禁止の携帯電話を生徒から取り上げた中学教師は、保護者に「基本料金を日割りで払え」と言われ、言葉が見つからなかったと言います。
ある幼稚園では、おもちゃを取り合う園児を見た親が「取り合うようなおもちゃを置かないでほしい」という申し入れも。小学校の1学年全クラスの担任配置表を独自に作成し、「この通りでなければ子どもを学校に行かせない」と要求した保護者もいるそうです。
小野田教授のもとには、信じがたい親たちの実態が全国の教育現場から続々と集まっています。
文科省調査では、全国の公立小中学校で精神性疾患による教職員の休職者は一昨年度、病気休職者の56%を占める3,559人に達しています。10年前のほぼ3倍、先生たちはお手上げ状態です。研究会メンバーの嶋崎政男・東京都福生市教委参事は「現場感覚でいうと、精神性疾患による休職の多くに保護者対応による疲弊が関係している」と見ています。
小野田教授の調査に、小中学校・園の8割が「無理難題要求が増えた」と回答。背景として嶋崎参事は「教師の能力に問題があるケースもあるが」と前置きした上で、「行政による『開かれた学校』がうたわれた結果、些細なことにもクレームが寄せられるようになった」と指摘しています。
保護者の理不尽な要求への関心は高まっており、小野田教授の講演依頼は学校やPTA、民生委員から殺到しているそうです。
嶋崎参事は、無理難題を言う保護者の養育態度を、「過保護型」「放任型」「過干渉型」の3種類に大別しています。いずれも家庭内の人間関係に原因がある場合が多く、過干渉型の場合、親にとって「良い子」を演じる子どもが教師の言動を大げさに報告し、事態を悪くすることもあるといいます。
また、要求態度については、◇子どもの言い分をうのみにする溺愛型◇教師の困った様子を見て満足する欲求不満解消型◇利得追求型-などに分類しています。
このような保護者への対応として、嶋崎参事は(1)複数の教師で対応に当たる(2)専門家のアドバイスを受ける(3)マニュアルを作る(4)事前研修の実施-などを提案しています。
その一方で「学校に無理な要求をする保護者は皆何らかの問題を抱えている。その解決のために学校と話したいという意思表示と考えるべきだ」とし、要求を機に保護者を“味方”に変える努力を呼びかけます。
小野田教授は「たてつかない弱者をいじめる“言った者勝ち”の傾向が社会に蔓延している」と指摘。社会問題としてとらえ、第三者機関の設置や学校の“守備範囲”の限定を訴えています。