アスペルガー障がいの“困った”への対処法(8)
2008/03/02
アスペルガー障がいのある人の中には、様々な感覚過敏をお持ちの方がおられます。今回は聴覚過敏について少し…。
小さな音もよく聞こえる、音量の大小などがあっても複数の音が同じ音量で混じり合って聞こえてしまう、金属音など特定の音を苦痛に感じる、扇風機やエアコンや水道水が流れる音などの生活音をうるさく感じる、などなど、様々な過敏さが見られます。時には苦痛からパニックを起こすこともあります。
一方で、絶対音感を持っていたり、遠くの小さな音を聞き分けたり、通常聞こえない周波数域の音も聞こえるなど、特殊能力的な聴覚をもっている場合もあります。
家族と一緒に食事をしなくて困っている、というケースが少なからずあるのですが、本人に理由を聞くと、家族の誰かの咀嚼音がうるさくてガマンできなくて自分の部屋で食べたり、食事の時間をずらして一人で食べている、という場合があります。
時々、2階の自室の床をドンと踏みならしている、というケースもあります。考えられるのは、1階のテレビや家族の会話などが(聞こえないだろうと思えていても)大きな音として聞こえている、自分のことについて何か批判的・否定的なことを相談しているのではないかと思い不安が強まった、などです。
こうした過敏さを持って生きていくことは、大変な苦労をともなうと思いませんか? しかし、感覚器官の「異常」や「病気」などではありませんから、医学的な対応ができるわけでもありません。
万能な方法とはいえませんが、一定効果があるのが、耳栓です。“うるさい”と感じる時は「耳栓をするとましになるよ」とすすめてみましょう。聞こえ方は、人それぞれですので、何がどう聞こえているのか、どれくらいの音量で聞こえているのか、それは苦痛に感じるのかなど、本人に確かめていくことが不可欠ですし、対処の方法はそこからしか考えて行けません。一番困っておられるのはご本人ですし、どうしたらいいかわからなくてイライラし不安になっておられるのもご本人です。
次回は「アスペルガー障がいの“困った”への対処法(9)」です。
学生支援へ大学動く 自閉症など発達障害
各地の大学で近年、自閉症やアスペルガー症候群など発達障害とみられる学生が目立っている。人間関係などに難しさを抱え、大学に通わなくなる学生もいる。京都大学や信州大学など、支援体制づくりに乗り出す大学が出始めた。 京都大学では、高機能自閉症の3回生男子(21)を、学部教職員やカウンセラーがチームで支えてきた。
「遠回しな表現を理解できません」「否定的な言葉かけに過剰反応します」。合格後すぐ、母親は、問題点をファイルにまとめ、理解を求めた。大学側は、高校の担任からも話を聞き、相談役を決めた。かかわる全教職員で情報を共有した。
1回生の6月、この学生が教務課に退学届を手に飛び込んできた。「京大生としてやっていけない」。語学で音読がよくできていないと指摘され、パニック状態だった。1時間ほどじっくりと聴くと、落ち着いた。
相談役の職員(56)は、今も年6回面接をする。学生は「いつでも相談できて助かった」。京大は今後、様々な障害のある学生支援を、大学全体で継続して進めるセンター設置を検討中だ。
富山大学は4月、学内のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を立ち上げる。対面の相談が苦手な学生は、カウンセラーとネット上でやりとりできる。
「孤立させたくない」と斎藤清二保健管理センター長(57)。年100人ほどの新規相談者中、昨年は1~2割に発達障害が疑われたという。多くは、過去に診断を受けていない。「知的レベルが高く、気づかれずに来た」と斎藤さんはいう。
信州大学は、4月から、「学生支援コーディネーター」を置く。精神科医や臨床心理士と学生の個別支援計画を作る。
国立特別支援教育総合研究所などが05年度、全国の大学や短大の相談担当者らに実施した調査では、過去5年間で約760校のうち3割が、発達障害の診断があるか疑いのある学生の相談を受けていた。
◇〈発達障害〉
(1)自閉症やアスペルガー症候群を含む「広汎性発達障害」(2)落ち着きがない「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」(3)読み書きや計算など特定分野が困難な「学習障害(LD)」など。脳の機能障害が原因と考えられている。文部科学省の02年調査では、普通学級に通う小中学生の6.3%に発達障害の可能性があるとされた。05年4月、早期発見と支援を国・自治体の責務とする発達障害者支援法が施行された。
(asahi.com)2008年02月23日15時32分
●生徒「起立の強制よくない」/県立高校卒業式(神奈川)
県立高校の卒業式が一日から始まった。式典で県教育委員会は君が代斉唱時の教職員の起立の徹底を求め、不起立者の氏名を報告するよう各校長に命じている。「起立の強制はよくない」「異なる考え方をなぜ認めないのか」。出席した生徒たちは、君が代問題への関心の有無を問わず、個人の自主性に任せ、多様な価値観の尊重を求める意見が相次いだ。
この日、県立高六十校が卒業式を行った。ある県立高では、「国歌斉唱」の司会者の合図で参加者が一斉に起立した。一人の教諭はじっと席に座ったまま。君が代のメロディーが流れる中、同教諭は静かに時が過ぎるのを待っていた。
この教諭は、起立しないことを事前に担任するクラスの生徒に伝えなかった。「価値観を押しつけたくない。自分で考えて判断してほしい」からだった。「教育現場に強制はなじまない。アジアの戦争被害者に思いをはせると、とても立てない」と打ち明けた。
「日の丸、君が代の強制」について生徒に話すことは控えているが、思い余って話したことがあった。はっとする答えが生徒から返ってきた。
「それって、沖縄の集団自決と同じじゃん」。戦時下で死に追い込まれた沖縄の人たち。生徒たちは、修学旅行で訪れた南国の地で学んだことと強制とを重ね合わせた。
同教諭は手応えを感じた。「日の丸、君が代について声高に語らなくても、伝えたいことを生徒に託すことはできる」
一日、同校を卒業したある女子は「強制はよくないと思う。同じクラスの男子で立たなかった人もいた」と級友の心を推し量った。グループで帰路に就いた卒業生グループも異口同音に「個人の自由」と言い切った。
湘南地域の県立高でも、立たなかった教諭がいた。卒業する娘の晴れ舞台に臨んだ父親は「今の子は国旗、国歌をあまり意識しないのでは。うちの娘も…」と話すが、当の女子は自分なりに受け止めた。「大勢の中で一人だけ座ったり、国歌を歌わなかったりするのは勇気が要る。もっと自由が認められていい」
横浜市内の県立高の卒業生の男子は、県教委の手法に手厳しい。「どうして違う考え方の人を認めないのか。不起立者の名前を集めるなんて、子供っぽい」。「強制」が生徒の気持ちにも影響を与えることを心配する。「心の中で立ちたくないと思う先生が強制されて立ったら、それを見ている生徒は、上の人の言うことをおかしいと思っても従うしかないのかと受け止めてしまう」
◆不起立教職員の氏名収集問題 県教委は06年の卒業式以降、延べ193人の氏名を収集したが、県個人情報保護審査会は07年10月の答申で「思想信条に該当する」として収集停止を求めた。さらに、県個人情報保護審議会も今年1月、収集を認めない答申を出した。だが、県教委は2月、不起立者の指導上、氏名把握は必要として答申に従わず、収集継続を決めた。
(神奈川新聞)2008/03/01
●独断「先行」の教育改革 見えない中身 現場戸惑い 橋下・大阪知事
「教育は僕のメーンテーマ」と語り、積極的に教育改革への意欲を口にする大阪府の橋下徹知事。習熟度別授業の充実、小学校の35人学級見直し、高校入試の学区撤廃…。これらの方針について橋下知事は、「机上の空論だった」「世間知らずを痛感した」と譲歩しながらも、推進の姿勢は崩していない。府教委は現在、学校からの意見聴取などを通じて、現行制度が適切かどうかを検証しているが、教育関係者からは「現場の実情を踏まえていない発言だ」という戸惑いの声もあがっている。
◇習熟度別授業
「手厚く教えてあげなければならない子に対しては、じっくり小人数で教えるべきだと感じた」
先月13日、初めて府内の学校を視察した橋下知事は、就任前から訴えてきた習熟度別授業推進の姿勢を改めて報道陣に強調した。
理解度に応じて児童、生徒をグループ分けする習熟度別授業は、大阪府では平成13年ごろから導入が本格化、現在では公立小学校の約9割、中学校の約8割で取り入れられている。学力の差が顕著に現れる英語と算数・数学に限って行っているケースが多い。
ただ、実施方法はまちまち。全学年でなく、小学校の場合は5、6年生限定という学校が大半。つまずきが見られやすい単元に絞って導入している学校もある。
今後の習熟度別授業の方向性について、橋下知事は「(実施校を増やすというより)内容の充実を図る。私立に負けないようにというのが僕の持論。それがどの程度達成できているかを議論していきたい」と述べているが、どの部分を変えるのかという中身には踏み込んでいない。
府教委小中学校課は「授業改善ということなのか、実施学年・学級を増やすということなのか…。後者であれば教員数の議論も必要になる」と話している。
◇35人学級見直し
「国の基準の40人学級の枠組みであっても、4分の3は35人に収まる。はたして30億円の事業費が必要なのか」
太田房江前知事の目玉公約として掲げた小学校の35人学級についても、橋下知事は、政策協議の場で府教委に見直し検討を指示している。
35人学級は、きめ細かい指導で学習習慣を身につけさせることを目的に小学校1、2年生で実施。橋下知事が言うように、制度がなくなっても35人を超える学校は1024の公立小のうち約280校にとどまる。
ある公立小教頭は「試算としては理解できるが、実際問題、いったん減らした人数を増やすことには抵抗がある。何より、『私立に負けない公立を』という知事の理念に反するのではないか」。
府内の中学、高校の国語教師を務め、教員らの相談に応じる「教師駆け込み寺・大阪」を主宰する下橋邦彦さん(68)は「1クラス20~25人が国際的な水準」としたうえで、「大阪が35人という基準を守り抜くことは、将来的に国が定めた上限(40人)の見直し論議にもつながる」と訴える。
◇高校の学区撤廃
習熟度別授業とともに、橋下知事が選挙期間中から訴えてきたのが公立高校入試の学区廃止だ。
大阪の学区は、約3年間の議論をへて、昨年9から4に再編されたばかり。学区撤廃も視野に入れての協議だったが、「特定の学校に人気が集中しかねない」との理由で見送られた経緯がある。
このため府教委は「再編の効果検証も済まないうちに再度変更すれば現場に混乱を招きかねない」(高等学校課)との考えだ。「教育に競争原理を持ち込もうという考えは支持できる」という府南部の公立中教諭も「完全に学区がなくなれば、高校と地域の結びつきが希薄になり中高の連携もとりにくくなる」とマイナス面の方を指摘する。
橋下知事が掲げる一連の教育改革方針について、教師駆け込み寺の下橋さんは「大阪を変えようという意欲は評価する」と一定の理解を示しながらも、「現場を知らずに発言しているという印象は否めない。すべてを現場に任せろとは言わないが、教員や専門家の話を聞き、自分の中で温めたうえで施策を打ち出したほうがいいのではないか」と話している。
(産経新聞)2008/03/02
●検証・心の闇の「臨界点」:母殺し少年保護処分/上 治療、更正でバランス/福島
会津若松市で昨年5月に起きた母親殺害事件は、26日に少年(18)の医療少年院送致が決まり、治療と矯正が始まることになった。家裁は決定理由で、少年が「殺人・解体願望」を膨らませ、不満や不安から「臨界点」を越えて事件に及んだと判断した。今回の決定を検証しながら、少年の心の闇と事件が社会に突き付けたものを探った。
◇医療少年院送致後に特別少年院移送の処遇勧告
「保護処分を選択すべき特段の事情がある」--。家裁会津若松支部の増永謙一郎裁判長は決定で、完全責任能力を認めながらも、少年を保護処分とした理由を6項目挙げた。被害者の応報感情が強くない、社会的不安が第三者に及ばない、少年に精神障害があった、などだ。
特徴的だったのは6番目の理由。医療少年院での治療の目的を達成した際には、「特別少年院に移送するのが相当」という処遇勧告を付けた。「一対一での徹底した指導を相当長期間継続する必要性」からだ。
元家裁調査官で京都ノートルダム女子大の藤川洋子教授(臨床心理学)は「裁判所がバランスを取ろうとした姿勢がうかがえる」と見る。
法務省少年矯正課によると、「特別少年院」は非行を繰り返すなど、犯罪的傾向の進んだ16~22歳の少年が入院する。矯正教育の内容は、中等少年院などとほぼ変わらないが、法務教官が個別に対応することが多いという。
同課の木村敦補佐官は「個別に接することができる点で、医療少年院から移送された場合に適しているとも言える」と話す。
治療が重点の医療少年院に加え、特別少年院に移送することで、事件の重大性や更生の必要性も強調した「バランスを取った」判断だった。
一方、01年4月施行の改正少年法は、殺人や傷害致死など故意に被害者を死亡させた16歳以上の少年を原則として検察官送致(逆送)すると定めた。最高裁によると、原則逆送にあたる罪で実際に逆送された割合は、施行前の98~00年度が約15%だったのに対し、施行後から昨年11月までは約60%と飛躍的に増えた。
少年法に詳しい青山学院大大学院法務研究科の新倉修教授(刑事法)は「少年の内面を見る行為者主義でなく、何をやったかを重要視する行為主義になった」と分析する。
事件当時17歳の少年も「原則逆送」に該当するが、今回の処分は少年の責任能力を認めながら逆送にはしなかった。殺人の「行為」を認定しながら、「行為者」の更生に考慮した両立的な判断ともいえる。実際、家裁送致の際に「刑事処分相当」の意見を付けた地検も、「責任能力を含め事実関係は当方の主張が認められた」(村上満男次席検事)と、決定を受け入れる結果となった。
福島章・上智大名誉教授(犯罪心理学)は「障害がある少年の完全責任能力を認めた点に疑問はあるが、医療少年院送致としたことは医学的に評価できる。特別少年院移送の勧告は、少年に事件の重大性を自覚させるためではないか」と今回の決定に理解を示した。
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■事件の経過■
07年 5月15日 午前1時半ごろ、少年が母親を刺殺し、遺体を切断
(カラオケ店とインターネットカフェを訪れる)
午前7時ごろ、頭部を持ち会津若松署に自首し逮捕
16日 殺人と死体損壊容疑で送検
31日 地検会津若松支部が鑑定留置を決定
10月 1日 鑑定留置が終了
10月 5日 地検支部が「刑事処分相当」の意見を付し家裁送致
22日 第1回審判。家裁会津若松支部が鑑定留置を決定
08年 1月21日 2回目の鑑定留置が終了
30日 第2回審判。2度目の精神鑑定の医師に尋問
31日 第3回審判。少年と父親への質問
2月 8日 第4回審判。少年と父親への質問
18日 第5回審判。少年への質問
26日 第6回審判。医療少年院送致の保護処分が決定
(毎日新聞)2008年2月28日
●検証・心の闇の「臨界点」:母殺し少年保護処分/下 空想から行動、低い壁/福島
問題のない子――。増永謙一郎裁判長は決定で、少年は高い知的水準や運動能力があり、母親ら周囲の大人から「必要適切な介入」を得られなかったと指摘した。中学2~3年ごろには「表面的な反応」で他者と接することができるようになり、「問題性改善の機会をますます失った」と見なした。
◇孤立した「問題のない子」、残虐画像で発散
少年は中学時代、成績優秀でスキー・ジャンプの県大会で入賞した経験もあり、近所では「利発でしっかりした子」と評判だった。元家裁調査官で京都ノートルダム女子大の藤川洋子教授(臨床心理学)は「頭の良い子は放って置かれるもの。周囲が問題点を見つけられず、望まない方向に流れてしまった」と分析する。
増永裁判長は「殺人・解体願望」が形成された要因として、視覚的刺激が強い死体写真や猟奇的漫画、インターネットを挙げた。藤川教授は「誰にでも『怖いもの見たさ』はあるが、少年の場合『怖い』という気持ちがない。『どうなるんだろう』という関心が強く、行動に移してしまったのではないか」と話し、空想から行動に移行する「壁」の低さを推察する。
高校入学後の少年は、対人関係の不満発散のためネットに耽溺(たんでき)し、昼夜逆転の生活を送るようになった。国際基督教大の佐々木輝美教授(メディアコミュニケーション論)は、残虐なシーンを繰り返し見ることが、抵抗感をなくす「脱感作効果」を生むことを指摘する。少年が通学のため両親と離れて暮らすようになったことで「抑制するものがなくなり、自分の世界が大きくなって行動に移してしまった」と分析する。
県教委は、今回の事件や不登校児童の増加を受け、来年度からスクールカウンセラーの派遣校を今年度の21校から45校前後に増やし、カウンセラーの人数も4~5人増やす方針だ。学習生活指導グループの菅家敏之参事は「早い段階で生徒の相談にのり、適正な指導をしたい」と話す。
氾濫(はんらん)する残虐な情報から青少年を守ろうという動きも進んでいる。昨年7月施行の改正県青少年健全育成条例では、「有害図書」の指定要件に新たに「青少年の自殺または犯罪を誘発するおそれのあるもの」が加わった。これまで、犯罪手口を紹介した書籍や死体を傷つける描写がある漫画など12冊が指定された。県教委も、来年度から小中高の授業などで、インターネットの利用法を指導する予定だ。
藤川教授は「子供は情報を取捨選択することができない。『放っておいてくれ』と言うが、人間は一人では生きられない。社会性を身につけるには、大人が積極的に介入し孤立させないことが重要だ」と訴える。
「修学旅行を休んだころからやる気がなくなった」「友人をつくりたかったが、できなかった」。少年は逮捕後の供述で、孤立感を訴えた。「問題のない子」は深い心の闇を抱えていた。
(毎日新聞)2月29日12時2分配信
●発達障害の学生の人づきあいを大学が支援 京大など
各地の大学で近年、自閉症やアスペルガー症候群など発達障害とみられる学生が目立っている。人間関係などに難しさを抱え、大学に通わなくなる学生も。かかわる全教員が特性を理解し支える京都大学、インターネットによる支援体制をつくる富山大学など、フォローに乗り出す大学が出始めた。
京都大学では、高機能自閉症の3回生男子(21)を、所属学部の教職員やカウンセラーがチームで支えてきた。
「遠回しな表現を理解できません」「否定的な言葉かけに過剰反応します」。合格後すぐ、母親は、成育歴や問題点をファイルにまとめて、理解を求めた。大学側は、高校の担任からも話を聞き、相談役を決めた。情報は、かかわる全教職員で共有した。
1回生の6月、この学生が教務課に退学届を手に飛び込んできた。「もう京大生としてやっていけない」。語学で音読がよくできていないと指摘され、パニック状態だった。1時間ほどじっくりと聴くと、落ち着いた。
相談役の職員(56)は、今も年6回面接をする。学生は「いつでも相談できて助かった」。京大では今後、様々な障害のある学生の支援を、大学全体で継続して進める学生センター設置を検討中だ。
高知大学は06年度から、入学時の健康診断で自閉症傾向が強ければ、保健管理センターの面接に誘う。早期コンタクトで、気軽に相談できる体制づくりを狙う。発達障害が疑われる学生は、06、07年度新入生でそれぞれ複数。また昨年度、センターへ相談に来た中にも十数人いた。
富山大学は4月、学生と教職員向けのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を立ち上げる。面と向かっての相談が苦手な学生向けに、カウンセラーとネット上でやりとりできる。
「孤立させたくない」と斎藤清二保健管理センター長(57)。年100人ほどの新規相談者中、昨年は1~2割に発達障害が疑われたという。
多くは、過去に診断を受けていない。「知的レベルが高く、気づかれずに来た」と斎藤さん。
国立特別支援教育総合研究所などが05年度、全国の大学や短大の相談担当者らに実施した調査では、過去5年間で約760校のうち3割が、発達障害の診断があるか疑いのある学生の相談を受けていた。
岐阜大学医学部・高岡健准教授(児童精神医学)は「発達障害の人にとって必要なのは、障害の理解に基づいて生活しやすい環境を整えるということ。今後もこうした視点による、取り組みを広げていく必要がある」と話す。
《発達障害》 (1)自閉症やアスペルガー症候群を含む「広汎性発達障害」(2)落ち着きがない「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」(3)読み書きや計算など特定分野が困難な「学習障害(LD)」など。脳の機能障害が原因と考えられている。文部科学省の02年調査では、普通学級に通う小中学生の6.3%に発達障害の可能性があるとされた。05年4月、早期発見と支援を国・自治体の責務とする発達障害者支援法が施行された。
(朝日新聞)2008年02月23日