気質・性格と対人関係を中心とした生育環境の絡み合い。
2010/07/19
気質は、心理学の上では「個人の性格の基礎にある、遺伝的、体質的に規定されたものと考えられている感情的傾向」(大辞林より)とされ、性格は「行動のしかたに現れる、その人に固有の感情・意志の傾向」(同)とされています。つまり、気質は生まれもって身につけている感情面での性質、性格はある気質を持って様々な経験をしながら発達・成長する中で身につけていく感情や行動の傾向やパターンと考えてもいいでしょう。
かつての心理学では、気質の分類などに力を入れ、その人の性格傾向や行動パターンの分析を進めた時期がありました。後に、その人が育った心理社会的環境要因との関係が、人格形成に強く影響を及ぼすことが社会心理学などの分野の研究から明らかとなり、感情や行動などでいわゆるの問題が生じた場合に、気質などの生得的な要因と、後の人格や性格の形成家庭に影響及ぼした対人関係や社会的関係要因を、関連づけながら読み解くことの必要性が強調されてきています。
「母親の育て方が悪い(≒母原論)」「この子はどうしようもない子だ」などと、不登校やひきこもり、非行、さらには自閉症スペクトラムなどの発達障害に至るまで、個人や家庭の問題とされた時期が長く続きましたし、今でもそうした考えは深く浸透していると言えますが、それでは何の問題解決にもなりません。
気質や発達面での偏りや障害といえる脳の機能的な障害の有無やその内容、そして、その人が背負って生きてきた心理社会的な背景を十分に把握し、今の考え方や問題となる行動に至るパターンなどを理解することが、まず大切です。
子どもは(人によって年齢は幅広いのですが)、自分の不安や辛さ、しんどさなどを他者にうまく伝えることができないものです。また、親などの立場を深読みして、あえて我慢する、ということをします。発達の面での特性が強い場合には、そのことを他者に伝えても良いのか、いつ、どう伝えれば良いのかがわからないまま黙っている場合も少なくありません。
ただ、アタッチメントと言われる、乳児期に子どもが最も信頼を置きつつ生理的ニーズを求める「重要な他者」(多くの場合母親です)との間での「愛着の形成」体験は、性格形成に基本的な影響を与えることは重要です。子どものニーズを理解し、即応できる関係であれば良いのですが、ニーズが理解できずにニーズに反した対応(例えば、おむつが濡れて交換して欲しいときに、お腹が空いたと思い違いしミルクを飲まそうとするなど)を続けたり、「重要な他者」の気分次第で可愛がったり、逆に泣いていても無視をしたりといったアンビバレントな反応を続けると、「重要な他者」が「信頼できない人」となり、「人」への「基本的信頼」や安心感、ひいては自己肯定感情の育ちを阻害してしまいます。
人は動物としては、極めて早産で、出産後に急速に肉体的にも精神的にも発達します。そして、精神的発達は、乳児期、幼児期、子ども期、思春期、青年期、成人期、壮年期、老年期…と、それぞれの発達課題を乗り越えつつ行われます。それぞれの時期に、より相応しい心理社会的環境が整えられていることが求められますが、現実は極めて厳しい状況にあると言えます。ただ、こうした視点に立って、一人ひとりの発達・成長を見守り、必要なサポートをする他者との関係性が豊かであることが望ましいと言えます。家族で、個人で抱え込む時代は終わりにしませんか?
それでは、最近の気になる記事です。
学校の自殺調査で指針=再発防止と遺族ケアで—不都合な事実も明らかに・文科省
文部科学省は1日までに、小中高校に通う児童・生徒の自殺が発生したとき、学校や教育委員会がどのように調査すべきかを示す指針を策定する方針を決め た。学校側が自殺の背景をしっかり調査することで、再発防止や遺族の心のケアにつなげたい考えだ。今年度中の策定を目指す。
児童・生徒の自殺は年間300人前後で、いじめや友人関係の悩みなど学校生活に何らかの原因があるケースも少なくないとみられる。しかし、地方自治体の 教育委員会や学校は原因や背景の調査には消極的で、遺族らによる批判を招いていた。そこで、文科省は調査の指針を作ることで学校の積極的な取り組みを促す ことにした。
現在、教育関係者や医師、臨床心理士らをメンバーとする有識者会議で策定作業を進めている。これまでに調査をする際の留意点として(1)学校に不都合な 事実も明らかにする(2)発生後何が起きたかを時系列に記録する(3)事実解明を望む遺族の希望に応えることと再発防止を重視する—などを確認した。
(時事通信)7月1日17時46分配信
●発達障害男性が国賠請求へ=盗撮自白「捜査官の作文」―東京高裁で逆転無罪
盗撮目的で女性に携帯電話を近づけたとして、一審で有罪となったアスペルガー障害の20代男性=神奈川県=に、東京高裁が無罪を言い渡し、2月に確定したことが27日までに分かった。男性が容疑を認めた供述調書について、高裁は「捜査官が誘導したか、作文した疑いをぬぐえない」と信用性を否定。男性は来月、精神的苦痛を受けたとして、横浜地裁に国家賠償請求訴訟を起こす。
二審で弁護を担当した野呂芳子弁護士は「自白獲得ばかり重視し、客観証拠を顧みない捜査が行われた」と批判。訴訟では警視庁と東京地検による捜査・起訴の違法性を問う。
男性が盗撮を疑われたのは2008年6月。都内の地下鉄駅のエスカレーターで、前にいた女性にとがめられた。警察署で任意の取り調べを受け、地検にも出頭。自白調書が作成され、都迷惑防止条例違反(卑わい行為)罪で在宅起訴された。
男性は裁判で「取り調べで調書の内容が違うと答えたが、取り合ってくれなかった」と無罪主張した。しかし一審東京簡裁は昨年3月、自白調書のほか、男性が驚いたり謝ったりしたとの女性や駅員の証言などを基に罰金30万円を言い渡した。
これに対し高裁判決は、男性をアスペルガー障害と診断した医師の意見書や証言を重視。通常の人より混乱しやすいとして、女性らの証言は盗撮を裏付けないと判断した。
(時事通信)6月28日2時33分配信
●しつけ?不足ふざけ? 誤認される発達障害
父親が発達障害や子育て支援団体について知識を深め、子育てに積極的にかかわってもらおうと、社団法人島尻青年会議所は27日、西原町の琉球大学で「発達支援研究フォーラム」を開催した。鹿児島大学大学院の土岐篤史准教授による基調講演の後、県内で発達障害児や不登校支援などを行っている団体の代表者らが登壇し、県内の支援の現状や課題について話し合った。
パネルディスカッションには、NPO法人「療育ファミリーサポートほほえみ」(南風原町)の福峯静香理事長、NPO「わくわくふれんど」(南城市)の吉本由美子代表、NPO法人「思春期青年期サポートセンターほのぼのすぺ~す」(西原町)の伊是名聡代表、県議の島袋大氏、与那原町議会議長の仲里司氏が登壇した。
県南部医療センターこども医療センターこころの診療科に勤務経験のある土岐准教授は「学業に支障のない発達障害の場合、ふざけやしつけ不足と認識されがち」と話し、「子どもは成長するので悲観する必要はないが、支援を先送りしてもいけない」と話し、気になる子を早期発見し、支援体制を整えることの重要性を訴えた。その上で「発達支援は家庭の問題ではなく地域の問題ととらえ、公的な支援が充実されるべき」と訴えた。
福峯理事長は、南風原町発達支援基盤整備事業を紹介。吉本代表は、発達障害についての啓発や地域支援など団体の活動内容を報告し、伊是名代表は「不登校生徒に対する義務教育終了後の支援が不十分」と指摘した。仲里氏は「2次障害を防ぐためにも保育者や教師への支援が必要」と話し、島袋氏は「早期発見の受け皿としての療育施設を整備するのは県の役目」とした。
(琉球新報)6月30日10時25分配信
●奨学金未納:/上 雇用不安に連動、10年間で4倍に/鳥取
雇用不安に連動して奨学金の累積未納額が増えている。県が給付している育英奨学金など3奨学金の09年度末の未納額は合わせて3億2714万円。99年 度末は7511万円だったので10年間で4.3倍に膨れ上がった。県教委育英奨学室は、専従職員(正職員1人、非常勤職員2人)を置いて徴収を進めてい る。徴収の現場を取材した。
「県奨学金係の者ですが……」。県庁第2庁舎の6階から郵送した督促状に応じない未納者に電話をかける。
「申し訳ありません。すぐに払います」「親が勝手に借りただけでしょう。なんで払わないといけないんだ」「2万円払うから今から取りに来い」
相手の応答はまちまちだ。電話のやり取りをすぐにメモに起こし、次の未納者に電話をかける。メモはパソコンに入力し、職員が共有できるようになってい る。昨年度の未納者は1940人。職員3人で一人ずつ応対していく。根気勝負の仕事だ。
「電話に応じてくれる人はまだいい方」と男性非常勤職員(53)は言う。電話に全くでない人や着信拒否する人も少なくない。電話でらちがあかない場合 は、2人1組で戸別訪問する。1人で行くと後で「言った・言ってない」でもめることがあるためという。
1泊2日で県西部に行くことも。20軒回っても在宅は5~10軒ほど。不在の場合、来たことを伝える紙を郵便受けに入れる。
この職員は「家の外観、車などを見ると経済状況がわかる。在宅していなくても足を運ぶのは非常に意味がある」と話す。もう一人の非常勤職員(58)は 「中には親子とも無職の人もいる。経済の厳しさを肌で感じる。経済困窮者に返済を強く迫ることは難しい」と話す。
企業の取り立てと違い、県教委の看板を背負っているため地道な説得を重ねて徴収する。「奨学金は税金です。あなたの返還金が次代の奨学金の財源になりま す」。懇々と説いていく。
「ないものはない」「アンタたちは公務員だから給料をもらっているでしょう。こっちはないんだ」と感情的な言葉が返ってくることもある。
こんなこともあった。何度も催促の電話をかけた人から電話がかかってきた。「職が見つかり、何とか来月から払えるようになりました」
「こういう電話は本当にうれしいですね」。固い表情で電話に向かうことが多いが、この時は笑顔がのぞいた。生活が軌道に乗ってくれたことがうれしいので ある。
(毎日新聞)7月3日15時39分配信