高機能の広汎性発達障害とカウンセリング(5)
2010/12/05
5.心的外傷体験の独自の解釈を理解しつつ整理する
自閉症スペクトラムの特性として、対人相互作用の困難さがよく言われますし、みなさんが共通して有しておられることは間違いないと思います。しかし、余り言及がされていない特性として、「(部分的、あるいは無意識選択的な)記憶力が良すぎて、忘れられることができない」というのも、かなり多くの方にあてはまるようです。
楽しい記憶、学びの記憶などであれば人生を豊かにしてくれるのでしょうが、嫌な体験となるとそうはいきません。
ある日突然学校に行かなくなった…、退職した後に家から出ようとしない(=就活をしようとしない)、医療につながらない、などなど、家族が「何で?」と思うような対人関係を拒否する行動が出る場合など、本人さんがその理由を語ってくれる時には、ほとんどと言っていいほど「過去の嫌悪体験」が登場します。もちろん、人によってそれぞれの体験ですし、年齢を重ねるほど増える傾向にあります。いわゆるトラウマの堆積した状態で、それをどう解釈し、処理していったらいいのかわからない、途方に暮れておられるケースがほとんどです。
論理的思考が好き、あるいは自責観念の後に他罰的思考や原因究明を求める方向に転じていく方の場合、「今こうして困っている、納得できない状態にある自分にしてしまったのは○○のせいだ」と、事実関係に照らして整合性のない論理展開を頭の中で作り上げていかれる方も多いようです。
また、継時記憶の情報の混乱などから、様々な時空に思考が散逸しつつも、(かなり)強引な事象の「結びつけ」を行い、その空想にふけることに安心感を感じたり(その逆の場合もありますが)、それを(その方にとっての)現実体験と認知してしまったりされます。
原点に、乳幼児期から児童期、思春期・青年期、そして就労などの社会的関係性の中での心的外傷体験が積み重なっているわけですが、それらが、整理できないままでいることに対して、本能的な防衛規制が生じます。それらが自閉症スペクトラムの特性と相まって、自身の心的了解を求めての「独自の解釈」を、高機能の方ほど行われるようです。
こうした方とのカウンセリング関係が成立したとき、生育歴、心的外傷体験、抑圧され無意識に閉じ込められた体験や情動、そのヒントとなる夢、家族をはじめとしてその方の人間発達に関わってこられた方々からの情報などをできるだけ多くつかみつつ、語られる言葉を、「独自の解釈」を前提としながらセラピストとして解釈していくことが求められます。
最初は滅裂に大風呂敷が広げられ始める方もおられますし、「独自の解釈」の講釈を始められる方もおられますが、聴き、言葉の意味を確認しながら整理していく作業をするつもりで、「トラウマ処理」を目標としてのカウンセリングが当面の課題となると思います。
それでは、最近の気になる記事です。
<障害者自立支援法>参院で改正案可決・成立
障害福祉サービスの原則1割を負担する障害者自立支援法の議員立法による改正案が会期末の3日正午過ぎ、参院本会議で民主、自民、公明各党などの賛成多数で可決・成立した。社民、共産両党は反対した。サービス量に応じた負担から支払い能力に応じた負担を掲げ、発達障害を対象に明記する内容で、13年8月までの同法廃止と新法施行までの「つなぎ」との位置づけ。
発達障害者や知的障害者の団体などから早期成立を求める声が強まる一方、同法違憲訴訟の元原告らは「1割負担の仕組みが残る恐れがある」と強く反発している。
新法は、ほかに▽グループホームを利用する個人への助成▽障害児向け放課後型デイサービスの制度化▽相談支援体制の強化▽知的障害者らのため成年後見の利用支援を市町村の必須事業にする--などの内容。
「毎日新聞」12月3日(金)12時35分配信
●<裁判>消えた権利~知的障害者と裁判 女性の訴え「門前払い」
知的障害をもつ女性(30)が強制わいせつの被害を訴えた刑事裁判で、1審の宮崎地裁延岡支部は昨年9月、女性の「告訴能力」を否定し、検察官の起訴を無効とする判決を言い渡した。「女性には裁判所に訴える能力がない」。公訴棄却判決は、いわば「門前払い」の内容だが、女性の周辺にはその判断への疑問の声が相次いでいる。12月21日に予定される控訴審判決を前に事件の周辺を歩き、司法における知的障害者の人権を考えた。
「携帯で胸を撮られた。みんなに見せるって」。昨年2月24日夕、宮崎県北部の山あいにある福祉作業所。家族や職員ら15人がかたずを飲んで”告白”に聞き入っていた。
きっかけは数日前、女性が友人に相談したことだった。本当だと思った職員は警察官にも同席を頼んだ。
「自分で男について行ったの」という問いに「1回か2回断った。でも早よこれ(車)に乗らんねって怒られた」。「何をされたの」「いやらしいことをされた。怖くて声が出んかった。体も動かんかった」。言葉を聞いた職員は「余りにありのままで、聞くに堪えなかった」と振り返る。作業所には、両親のおえつと職員のもらい泣きの声が響いた。
話し合いは約3時間に及んだ。最後は全員で「この子たちを守ってくれるのは警察しかない」と、警察官に頭を下げた。外は真っ暗になっていた。
まもなく逮捕・起訴された男(61)は捜査段階で容疑を認めたが、公判では「合意の上だった」と否認に転じた。女性は昨年6月、裁判所に出廷した。
尋問は、傍聴席や被告の間についたてを立てただけで行われた。関係者によると「相手(被告)を許しますか」と尋ねた検察官に女性は「許しません」とはっきり答えた。だが、聞き手が裁判官に替わり、供述調書と告訴状の意味の違いなどについて聞かれると、黙り込んでしまったという。
そしてその3カ月後に出た判決は、被害者の「告訴能力のなさ」を書き連ねていた。「問いが難しくなると、応答が迎合的になる」「告訴状と供述調書の違い、記載内容などを自発的に説明できない」。起訴自体が無効という判断は、女性の周囲に衝撃を与えた。
知的障害者が巻き込まれた事件の情報を集めている「全日本手をつなぐ育成会」(東京)によると、知的障害を理由に告訴能力を問題視されて起訴が無効とされた事件は聞いたことがないという。
大久保常明常務理事は「知的障害者は被害をうまく説明できなくて泣き寝入りしてしまうことが多い。だが、この判決は告訴能力を否定しており、それ以前の問題だ」と驚く。「一般人でも告訴状と供述調書の違いをきちんと説明できる方がどれだけいるでしょうか。こんな理由で知的障害者を司法から排除するのなら、司法の役割とはいったい何なのでしょうか」
なぜ、こうした判断に至ったのか--。記者は2度にわたって裁判長に取材を申し込んだが、宮崎地裁から「判決文にあることがすべてで、コメントできない」という電話回答があっただけだった。
強制わいせつの被害を訴えた宮崎県の女性(30)は09年6月、同県延岡市内で精神科医(77)の鑑定を受けた。県北部の鑑定を一手に引き受けるようになって約四半世紀。医師は、抽象的な質問や難しい言葉は苦手という知的障害者の特性を考え、父親を同席させてゆっくり分かりやすく話すよう気を遣った。
「学校ではどんな子だったのかな」と尋ねると「いじめられっ子」という答えが返ってきた。好きな科目は「国語」。嫌いな科目は「算数」。好きな漫画は「りぼん」……。
女性はおとなしく、被害状況を聞けないくらい恥ずかしがっていた。しかし、「事件についてどう思っていますか。どんな感想を持っているのかな」と聞くと「二度とこんなことがないように」と、うつむき加減に、だがはっきりとした言葉が返ってきたという。
医師は、約2時間の知能テストと面談の末、軽度の知的障害と判定した。「中学生以上の社会的能力を持ち、物事の善悪は判断できる」。そう話す医師は、1審判決について「意志をうまく伝えられない知的障害者はとても弱い存在。でも裁判所は彼女の思いをくみ取ろうとせず、事件をなかったことにして彼女は被害者にもなれなかった」と語る。
◇ ◇
事件当時、女性は自宅近くの福祉作業所に通っていた。「障害があっても地域で暮らしたい」。そう願う障害者の家族や兄弟たちが協力して作った小さな作業所だ。
両親は女性を都市部で就職させることも考えた。だが「家族と一緒に暮らしたい」という女性の希望もあって、作業所に通わせることにした。育てた野菜を売って月に約5000円を得るだけだが、職員は泥だらけになって楽しそうに畑仕事をする女性の姿をよく覚えている。
事件後、再び被害に遭うことを恐れた両親は、女性を遠くの入所型グループホームに移した。「兄弟はみな就職して家を出て、最後まで残ったのがあの子だった。いなくなってしまって私たち夫婦の生活がどんなに寂しくなったことか」。父親は声を落とした。
◇ ◇
女性は読み書きもでき、施設の仲間や好きなタレントの生年月日や干支(えと)をすべて覚えていた。事件から約1週間後、舗装された道路もない山奥の現場まで、職員や警察官を正しく案内したという。
11月中旬、記者は女性を訪ねた。「忘れさせてやりたいから、事件のことは聞かないで」。そう念押しされ、グループホームの片隅で女性を見守った。
ホームにいる間、女性は入所者と終始おしゃべりをしていて、初対面の記者とはなかなか目を合わせようとしなかった。だが、しばらくすると記者に名前や好きなタレントを聞き、自分の氏名住所と好きなアイドルを書いた紙を渡してくれた。
「また来てね」。帰り際、ささやいて笑った女性は、童顔で年齢よりも幼くみえた。だが、好き嫌いもしっかりあり、友人と雑談もできる彼女と自分は何がそんなに違うのか。「誰も彼女の証言能力を疑ったことはありません」。作業所職員の言葉は、決して誇張ではないと実感した。
「毎日新聞」12月2日(木)7時38分配信
●心も凍る「就職”超”氷河期」 連敗で鬱…面接会に臨床心理士
「超氷河期」ともいわれる就職状況の中、来春の新卒予定者らを対象にした就職面接会が30日、大阪市内で開かれ、内定が決まっていない大学生ら約1500人が参加した。今年は”連戦連敗”で鬱状態に陥り、専門家による心のケアを受ける学生が増加。会場には、こうした学生のための相談コーナーも初めて設けられ、厳しい年の瀬を迎える学生たちの就活事情が改めて浮き彫りになった。
◇でも大手志向…企業もため息
面接会は大阪労働局などが主催。例年より約3カ月前倒しで開催され、大阪府内の中小企業など70社が参加し、参加者は前年より約1.5倍増えた。
大阪市の男子学生(22)は「自分に合った職場を探しているが、どうすればいいか分からない。親からは年内に決めろと言われている」と焦りを隠せない。
労働局によると、来春の新卒者の就職内定率は、10月1日現在で全国平均が過去最低の57.6%、近畿でも過去2番目に低い60.5%まで落ち込んでいる。
「若い人は大手に目を向けがちですね…」と話すのは、居酒屋チェーンなどを展開する丸善食品(大阪市東住吉区)販売一課の安藤学課長(34)。住友金属工業子会社の住金精鋼(大阪府堺市)の藤本善弘総務室長(49)も「住金のブランドだけでは優秀な人材は来てくれない」と本音を漏らす。
この日の面接会でも、座席が埋まり、ブースからあふれるほどの学生が集まった企業もあったが、逆に学生がほとんど寄りつかないブースもあるなど「二極化」が目立った。
「危険で体力がなければできない仕事と勘違いされている」と綜合警備保障採用部の小西晶課長代理(39)。実際、警察官や消防士を目指す学生らが”滑り止め”として同社を受けるケースも多いという。
一方、会場には臨床心理士による相談コーナーが初めて設置され、就職難が原因で精神的な不安を抱える学生が集まった。
大学生らの就活を支援する大阪学生職業センターは「有名企業を何十社も受けて落ちると、自分を無能だと思い込み、敗北感を抱いてしまう。相談にきて、いきなり号泣する人もいる」と話す。
最近は、抗鬱剤を飲みながら就職活動を続ける学生も少なくないという。
面接会場を訪れた兵庫県尼崎市の女子学生(22)は「これまで50社に応募したが書類選考で落とされ、面接まで残ったのは2社だけ。自分を否定されているようで自信がなくなった。つらいです」と表情を曇らせた。
同センターによると、今年度の利用者は9月末現在、前年比約3割増。担当者は「年末から年明けにかけ、さらに増えるのでは」と話している。
「産経新聞」12月1日(水)9時5分配信
●09年の若者の失業率、全年齢平均上回る
政府は3日午前の閣議で、2010年版「子ども・若者白書」を決定した。
白書によると、09年の失業率は15~19歳で9・6%(前年比1・6ポイント増)で全年齢計より4・5ポイント高かった。20~24歳は9%(同1・9ポイント増)、25~29歳では7・1%(同1・1ポイント増)だった。
07年の非正規雇用者(学生を除く)の割合は、15~19歳で40・2%と4割を超え、20~24歳の32・5%、25~29歳の27・5%を上回った。
一方、07年3月卒業者の就職後3年間の離職率は、中学卒65%、高校卒40・4%、大学卒31・1%だった。中学・高校卒業者は1年目に離職する人の割合が高く、中学卒では約4割になっている。
「読売新聞」12月3日(金)11時32分配信
●性同一性障害の小6男児 中学校も「女子」通学
心と体の性が一致しない「性同一性障害」と診断され、女児として通学している兵庫県内の小学6年の男児(11)が、来春の中学入学後も「女子」として通学することが1日、地元の教育委員会への取材で分かった。男児は教育委員会の配慮で女子用の制服を着用、トイレも女子用を利用するといい、こうした配慮は異例という。
教育委員会によると、男児は小学校でも女児として受け入れられており、教育委員会は9月、保護者と男児の主治医、中学校の教諭らを交えて検討。保護者からの要望もふまえて、女子として通学させることを決めたという。
「産経新聞」12月1日(水)15時48分配信
●桐生の小6女児自殺:第三者委、市長部局に 中立性確保へ市外委員/群馬
桐生市立新里東小6年、上村明子さん(12)の自殺を巡り、同市教育委員会は29日、臨時会を開き、いじめと自殺の因果関係を検証する第三者委員会の設置を市長部局の総務部に委ねることを決めた。市側も同意した。高橋清晴教育長は「中立性を確保するため」と説明している。
市教委によると、臨時会では第三者委のメンバーとして▽弁護士▽精神科医▽臨床心理士▽人権関係▽PTA役員などの保護者--から各1人を選ぶことが望ましいとの意見で一致した。さらに、客観性を保つため、いずれも市外在住であることを条件にすべきだとしている。
市側は総務部に第三者委の事務局を設置することで合意。今後、人選を進め、来週中の第三者委発足を目指すという。
市教委は、いじめと自殺の因果関係について「特定できない」とした学校側の調査結果を受け入れた経緯があり、明子さんの両親から、中立・客観的な検証に疑問の声が出ていた。
市教委と市の同意を受け、亀山豊文市長は「第三者による委員会については、一刻も早く設置するよう指示している。速やかに委員を選任し、早急に調査結果を出していただけるようお願いする」とのコメントを発表した。
「毎日新聞」11月30日(火)12時32分配信
●新教育の森:ほっかいどう フリースクールの実情と課題/北海道
◇費用の負担大きく 「認定校」で公的助成を
不登校の子供たちの受け皿の一つになっているフリースクール。その運営者と保護者団体で作る「不登校の子どもの育ち・学びを支える札幌連絡会」が11月上旬、認定フリースクール制度の導入などを柱にした提言書を札幌市に出した。学校復帰だけでなく、もう一つの選択肢として、フリースクールの充実を図ることを求めている。その実情と課題を考えた。
□■運営は「火の車」
札幌市厚別区厚別北2の5のフリースクール「そら」。マンション一室で、小学生たちが茶道のお点前の練習に励んでいた。やかんで湯を沸かし、茶わんに入った抹茶を茶せんでたてる。2日後に迫った札幌で行われる「フリースクールフェスティバル」のアトラクションに出るためだ。
このフリースクールは小学生が中心。現在、不登校の8人が通う。月~金曜の週5回、午前中は個別学習し、午後は全員で自由活動を行う。自由活動では外部ボランティアも指導に当たり、絵画や音楽、調理、野外活動と幅広い。遠藤明美代表は「最初、子供は顔を引きつらせ、仲間と離れて一人ポツンと壁の花になっていました。でも、ここが安心できる場所と分かると、表情が明るくなります」と話す。一人一人の良いところも悪いところも丸ごと受け止め、向き合うことが大切だという。
教師を約25年間務めた遠藤さん。最後は不登校の子供らを担当した。「何とかしてあげたい」と退職し、01年春にそらを設立。「学校復帰がベストとは思いません。学びの場は人それぞれあり、別の選択肢があってもいい。ここで、社会的に自立するうえで何が大切か、その答えを探す手伝いをしています」と話す。
だが、運営は「火の車」という。利用料は通う回数に応じて月額1万~3万円。親にとっても負担だが、それだけで運営するのは厳しい。教室を借りていたが、退職金が底をつき、自宅マンションに移った。遠藤さんは「年金があるので、まだ何とかなる。でも若い人が働きたいと言っても、給料は出せず、継続できる仕事ではありません」と漏らす。
□■道内に27施設
提言書では、不登校の育ち・学びの場の選択肢の一つとして、フリースクールの役割を強調している。保護者、運営者にとって、問題は利用料の負担。そこで、認定制度を創設し、公的な財政支援を提案している。札幌自由が丘学園の亀貝一義理事長は「札幌市は子どもの権利条例を制定している。その理念を実現するためにも、先頭を切って実現してほしい」と話す。
道教委によると、昨年度の不登校の公立小中学生は約4200人。学校に行けない子はフリースクールや市町教委の適応指導教室に通うが、全体の一部にすぎない。フリースクールなど民間施設は道内に27施設(8月現在)ある。運営はNPO法人や個人などで、通所型や訪問型とさまざまタイプに分かれる。
親の会「フリースクール等で子どもを育てる親の会」の平山るみ子代表は「息子を3年間通わせた経験があるが、元気になった。学校生活になじめない子がいる中で、学校とのすき間を埋めるフリースクールの役割をもっと認めてほしい」と訴えている。