自罰・他罰、被害・加害妄想の基盤にある心的外傷体験
2010/12/23
トラウマ、PTSD、…。第二次大戦帰還兵の心的ダメージに起因した持続した様々な精神症状などの臨床研究などから、疾患群として位置づけられてきました。日本では1950年頃から研究が始められたそうですが、停滞期を経て、阪神淡路大震災の後に再び注目されるようになりました。そして、事件、事故、災害などの強い心的外傷体験に加えて、最近では、児童虐待などの人間発達の過程における関係性において生じる被虐体験、性的被害、他のハラスメント体験なども、トラウマの視点からの査定、診断、治療が取り組まれてきています。
事件、事故、災害、レイプなどの不可避的な体験と、それら以外の関係性に起因する心的外傷体験とは違いがあり、後者は心理社会的な背景要因の把握、解釈のされ方の理解が、支援対応に大きく影響しますし、汎化できない個別の人生の課題としての対応が必要となります。
さて、自閉症スペクトラムの特性のある方にとって、生きることへの大きな阻害要因として、やはりトラウマへの対応が重要であることが注目されてきています。特性によるところの様々な問題、育てにくさ、風変わりさによるからかいやイジメ、疎外感、わかって欲しいことが満たされない不満や不信、将来への見通しが持てない不安、…。そしてこれらの体験や認知が記憶として固着し忘れられない。ストレス耐性の弱さも加わり、不安や混乱、衝動のコントロールができない。情報処理の苦手さや独特さから、ちょっとしたキッカケからパニックに…。こうした状態が継続すると、それらの問題の原因を自分にあると考えて自責・自罰的思考や行動化がしょうじたり、他に原因の所在を転嫁しようとして他罰的な言動が生じたり、それらが状態によって入れ替わったり。さらに発展すると、また同じことが起こる、次は誰かにされるといった被害妄想や、秋葉原事件のような行動を自分もしてしまうのではという加害妄想が生じます。
過去の人生において体験したことは忘れられませんが、納得できる解釈ができるように支援して受容・整理していくこと、達成感や満足感、喜び体験などを積むことで自尊感情を高める支援をすること、人生の再構築に向けて前向きな将来展望を持てるように支援していくことなどが、トラウマ処理には不可欠と思います。
それでは、今週の気になる記事です。
<周囲気にする子どもたち>1人で昼食「難しい」 「遊び」減り、意思疎通下手に?
他人の目を気にしすぎる子が増えているようだ。昼食を1人で食べている姿を周囲に見られたくない大学生がトイレで食事しているという話題が報じられたが、「気持ちが分かる」という中高生も多い。なぜなのか。子どもたちと教育・福祉に携わる大人の話から、背景を考えてみた。
東京都渋谷区の児童総合施設「こどもの城」で今月、子どもたちが身近なテーマについて語り合うイベントがあった。首都圏の中高生約40人が集まり、喫茶店のように数人ごとにテーブルを囲む。
「まわりの目が気になりますか?~ひとりごはんできる?」をテーマにしたテーブルをのぞくと、学校で昼食時間をどう過ごしているかが話題になっていた。学生食堂で好きな物を食べている私立中3年男子(15)は「食堂ではどこに座るかも自由だけれど、必ず友達と食べる」という。他の子に「1人で食べることはないの?」と聞かれると「やりにくい。だって誰もしてないから」。
私立高3年の女子(17)も「1人だけで何かをするのは嫌。人にどう見られているかが気になってしまう」と自信なさげだ。その理由を尋ねても「なんとなく……」としか返ってこない。うまく言葉にできない、漠然とした不安があるようだ。
いじめに遭い10月に自殺した群馬県の桐生市立小6年、上村明子さん(当時12歳)のクラスの話も出た。好きな人同士がグループを作って給食を食べる中、明子さんは独りぼっちで食べていたという。公立中2年の男子(14)は「1人で給食を食べさせるなんてやってはいけない。強制的でもいいから席をくっつけるべきだった」ときっぱり。高3女子は「でも話しづらいかも。そもそも仲良くないんだから」と疑問を投げかけた。
話題はその後、「クラスで多数決を採る時、自分が少数派になりそうだったらどうするか」になった。私立中1年男子(12)は「自分がまじめな意見だと思ったら、人に合わせなくてもいいんじゃない」と言ったが、私立高3年女子は「9割方決まっている時、(多数派意見を)違うと思っても言い出せない」。中2男子が言葉をつないだ。「それは(少数意見の方が採用されて)失敗したら、責任を人になすりつける人がいるから」
子どもたちの世界は、周囲を過剰に気にせざるを得ない窮屈さで満ちているようだ。
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人の目を気にして周囲と同じ行動を取ろうとするのは、何歳ごろからなのだろう。
東京都台東区にある寿児童館の水野かおり館長は「男の子は比較的1人で行動しても平気だが、女の子は小学3年生のころには4、5人の固定した仲間で一緒に動くようになる」と話す。
ある遊びを始める時、ボス的な女の子が「嫌だ」と言い出したことがあった。その時は他の子も「そうだよね」と同調して遊ばなかったが、ボスがいない時に残りの子たちでその遊びをした。後になってボスにそのことがばれ、残りの子たちは必死にごまかした。
「人の目を気にする子はこの10年間で増えた感じがする。周囲への合わせ方がうまくなってきた」と水野さん。小学生向けファッション雑誌を見て、同じグループで同じブランドの服を着ている女の子たちもいる。
背景は何か。「かつて子どもは遊びを通して相手の気持ちを察し、コミュニケーションの土台を培った。そんな『遊びの場』が消え、意思疎通の能力が乏しくなったため、仲間内でない子と関わるのが面倒なのではないか」。確かに、街の公園には「球技禁止」など遊びを規制する立て札が立ち、子どもたちは習いごとや塾で遊ぶ時間もない。
さらに「今の子は失敗や間違いをすごく怖がる」と指摘する。やったことのないゲームや遊びに手を出さない子も増えたという。
教育雑誌の編集人を務める名古屋市立桃山小の岡崎勝教諭(58)は「遠足などで弁当を食べるとき、『仲間に入れて』と言いたいのに『断られたらどうしよう』と言い出せず、1人で食べる子が近ごろはクラスに1、2人はいる」と話す。
岡崎さんは「子どもが携帯電話などの情報ツールを使いこなすようになって以来、クラス内で孤立する子が顕在化した」とみる。給食を1人で食べている子を自分のグループに招き入れた子が、後で他の子たちに「なんで連れてきたの」「ウザイ」とメールで責められた例もあるという。
「子どもたちは自分も排除されはしないかとおびえ、周囲との関係を必死で保とうとしている。人を排除するのは卑しいことだと、教師がはっきり教えなければ。僕は高学年の子には『1人で結構、1人が一番』と言っている。周りの大人が自立や独立心の大切さを繰り返し伝えることが重要なのです」
(毎日新聞)12月14日(火)7時54分配信
●いじめ賠償訴訟、差し戻し控訴審で増額判決
広島市立中学校に通っていた当時、同級生からのいじめで不登校になり、統合失調症を発症したとして、元生徒の男性(22)が、元同級生や同市、広島県などに損害賠償を求めた訴訟の差し戻し控訴審判決が20日、広島高裁であった。
広田聡裁判長は、賠償額を330万円とした2審・同高裁判決を変更、いじめ被害と統合失調症の慰謝料をそれぞれ算定し、計507万円とする判決を言い渡した。
1、2審とも発症はいじめが原因であると、学校などの責任を認めたが、2審は賠償額を1審(660万円)の半分にしたため、男性側が上告。最高裁は今年1月、2審の慰謝料算定方法が間違っているとして高裁判決を破棄、差し戻していた。
判決では、男性は中学在学中の2001年4月から2年余り同級生からいじめを受け、不登校となった。
(読売新聞)12月20日(月)21時42分配信
●35人学級見送りへ、人件費抑制を優先
政府は13日、2011年度予算に向けて文部科学省が要望していた「小学1、2年の35人学級」の実現を見送る方針を固めた。
民主党は先の参院選公約で「少人数学級の推進」を掲げたが、教職員人件費の拡大に歯止めをかけることを優先する。
政府の「評価会議」(議長=玄葉国家戦略相)は11年度予算編成に先立つ「政策コンテスト」で、35人学級について、A~Dの4段階評価で上から2番目のB判定を下していた。しかし、その後の政府内の調整で、35人学級の実現に必要な教職員の定数増(6300人増)をいったん認めれば、将来にわたり人件費が膨らむ要因となり、文教・科学振興費を減らしにくくなるとの見方が強まった。
35人学級を巡っては、文科省が「きめ細かい教育指導につながる」などの理由で、11年度から8年間で小・中学校を対象に段階的に実施するよう求めている。一方、財務省は「少人数化と学力向上の因果関係は必ずしもない」として40人学級の維持を主張している。
(読売新聞)12月14日(火)3時4分配信
●賃室で自殺に高額請求、被害防止の法律要望へ
賃貸住宅での自殺を巡り、遺族が家主から高額な損害賠償を請求されるケースが相次いでいるとして、全国自死遺族連絡会(仙台市、田中幸子代表)が22日、一定のルールを定めた法律制定を求める要望書を内閣府に提出する。
連絡会では、弁護士や大学教授らとともに研究会を設立。法案のたたき台を作るため、被害の実態調査にも着手する。
自殺のあった物件は、家主にとっては借り手がつかないなどの「被害」が生じることがあり、「心理的瑕疵(かし)物件」として遺族に損害賠償を求めることも多い。しかし、連絡会によると、遺族の混乱につけ込み、過大に請求するケースが相次いでおり、同会に寄せられた約200件の事例の中には「室内全体の改装費などとして約700万円を請求された」「おはらい料も求められた」といったものもあった。
(読売新聞)12月21日(火)6時41分配信
●中3男子、胸刺し自殺=近くに包丁、遺書?も-兵庫県警
22日午後10時20分ごろ、兵庫県宝塚市千種のマンションに住む女性(44)から「息子が血まみれで倒れている」と119番があった。消防などが駆け付けたところ、マンション裏の傾斜地に女性の長男で公立中学3年の男子生徒(15)が血まみれで倒れており、病院に運ばれたが死亡が確認された。近くに包丁が落ちており、遺書のような手紙が見つかったことから、県警宝塚署は男子生徒が包丁で自分を刺し自殺したとみて調べている。
同署によると、男子生徒は上半身裸で、左胸に刃物を突き刺したような傷があった。近くにあったかばんの中から「今までありがとう。15年間楽しかった」などと書かれた手紙が見つかった。
(jijicom)2010/12/23-02:02
●「教室に入れない」中学生:卒業後、4割が「無業」--倉敷市教委調査/岡山
倉敷市教委は13日、登校しても「教室に入れない」中学生(不登校生徒は除く)の進路調査結果を発表した。今年3月末の卒業生が対象で、約4割が進学も就職もしていない無業者(アルバイトを含む)だった。
この日の市議会文教委員会で明らかにした。市教委は昨年7月末に市立中学校全26校で、登校しても校内でたむろするなど「教室に入れない」生徒に関する聞き取り調査を実施。生徒全体の約1%に当たる141人だった。うち3年生76人の進路状況を調査した。
37%が高校や各種専門学校に進学し、22%が就職した。進学も就職もしていない無業者41%のうち、アルバイトをしているのが22%▽中学で進路が確認できていない例が19%あった。
市教委は「進学率が低い傾向がはっきりしたが、同様の調査例が他に見あたらず、他自治体との比較はできない」といい、「教室に入れない生徒への対応をどうするか、検討する際の基礎資料にする」と話している。
(毎日新聞)12月14日(火)16時48分配信
【カンナからのコメント】
私の生まれ故郷にしては、よくやった!とめずらしく褒めてあげたい取り組みです。他に調査例が見あたらない、これが実態で、そして問題の本質なのかも知れません。他に例がなくても、独自の改善に向けた取り組みを保障していって欲しいと思います。
●全日制高9割で「いじめ」を認知 群馬
県教育委員会は22日、県内高校に実施したいじめ実態把握調査の結果を公表した。全日制高校でいじめを認知したのは59校で、調査した68校の86・8%に達した。定時制でも14校中の9校(64・3%)でいじめが認知された。
いじめの認知件数は計1602件。全日制が1466件、定時制では136件だった。
具体的ないじめ行為(複数回答)は計2952件で、最も多かった「悪口を言われたり、おどされたりする」は計911件。そのほか、「仲間はずれにされたり、無視されたりする」(571件)、「たたかれたり、けられたりする」(398件)-などが目立った。
認知したいじめのうち75・8%にあたる1214件は教諭らの指導などで解消されたが、残る388件は継続しているという。
調査は、桐生市立新里東小6年の上村明子さん(12)が自殺した問題を受け、11月に県下の全日制、定時制高校計82校、4万711人を対象に実施した。
(産経新聞)12月23日(木)7時56分配信
【カンナからのコメント】
学校や校長、教員の「評価が下がる」ことを恐れて発表しなかったり数値を低く報告したりという管理教育システムの弊害が進んでいます。事実を事実としてまずきちんと把握し、分析・評価し、改善に向けての多様な方略を学校外の社会資源と連携しながら探り具体的に取り組んで行くことが強く求められます。群馬県教委の独自の取り組みだと思われますが、全国に広がって欲しいと思います。
●教諭が「愚か者一覧」を掲示=不適切指導と訓告処分―青森
青森県内の公立中学校で昨年、2年生の担当教諭が「愚か者一覧」として生徒の実名を書いたリストを校内に掲示していたことが20日、県教育委員会への取材で分かった。学校がある自治体の教育委員会は、不適切な指導だったとして今年1月、教諭を訓告処分とした。
県教委によると、この教諭は昨年7月~11月、提出物を出さない生徒を「愚か者」として、名前のリストを校内に掲示。このほか、生徒との交換ノートに「ダメ人間」「問題児」などと書き込んでいたことも分かった。教諭は学校から注意を受け、生徒と保護者に謝罪したという。
(時事通信)12月20日(月)13時46分配信
●発達期にセロトニン減-広島大、自閉症マウスで発見
広島大学の内匠透教授らは自閉症のマウスを使い、発達期に脳内の神経伝達物質「セロトニン」が少なくなっていることを見つけた。
遺伝情報を担う染色体のうち、ヒトの自閉症と関わる染色体に対応するマウスの染色体に着目。マウスの染色体を変え、自閉症ヒト型モデルマウスを作ることで、発見につなげた。
今回の研究成果によりセロトニンに関わる自閉症の治療薬などの開発が期待できる。
自閉症マウスの脳をすりつぶし成分を分析した。発達期である生後1―3週間の脳の全領域で、自閉症マウスが持つセロトニン量は、通常のマウスが持つセロトニン量の85%程度に減少していることがわかった。一方、生後8週間程度の大人の自閉症マウスでは、小脳や中脳でセロトニン量が少なくなることもわかった。
(日刊工業新聞)2010年12月17日
●<赤ワイン>脳機能改善、マウスで神経細胞増殖 名古屋市大
赤ワインが、記憶に関わる脳の神経細胞の数を倍増させ、認知能力を高めることが、岡嶋研二・名古屋市立大大学院教授(展開医科学)のチームの動物実験で分かった。白ワインでは効果がなかった。近く米国の栄養生化学雑誌に発表する。
これまでに赤ワインを1日400ミリリットル(グラス3杯程度)を飲む人は、飲まない人に比べ、認知症の症状が表れにくいことが、フランス・ボルドー大などの疫学調査で分かっていた。チームは、赤ワインに含まれ、心疾患減少に効果のある「レスベラトロール」という成分に注目。マウスにレスベラトロール含有量の多い赤ワイン0.2ミリリットルを毎日、3週間にわたり飲ませた。
その結果、脳の中で記憶をつかさどる「海馬」と呼ばれる部分の神経細胞が、飲まないマウスに比べ2倍に増えていた。迷路でゴールにたどりつく時間も訓練開始から5日目に、飲まないマウスに比べてほぼ半分になった。白ワインを飲んだマウスは、飲まないマウスと同じ結果だった。効果がどこまで継続するかはこれからの課題だが、持続して摂取する必要があるという。
さらに、胃が受けた刺激を脳に伝達する物質の機能を失わせたマウスでは、レスベラトロールを飲ませても脳機能改善の効果は認められず、レスベラトロールが、伝達物質を通して脳に影響を及ぼしていると確認した。
レスベラトロール濃度が高いのは、フルボディーや色の濃いタイプの赤ワインという。
岡嶋教授は「赤ワインの健康効果は欧州の人々の間で言われてきたが、やはり科学的な裏付けがあった。しかし、アルコールの過剰な摂取は肝臓への悪影響もあり、飲み過ぎないでほしい」と話す。
(毎日新聞)12月19日(日)2時33分配信
●脳疾患130種以上の関連遺伝子を特定か、研究
130種類以上の脳疾患の進行に重要な役割を果たすタンパク質の一群を特定したとの論文が、米科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(NatureNeuroscience)」に掲載された。
これらのタンパク質群は、アルツハイマー病やパーキンソン病など多数の脳疾患との関連性だけでなく、人間行動の発達にも驚くほどの関連性があることが分かったという。
■シナプスの中の「PSD」
人間の脳は無数の神経細胞が入り組んだ迷宮を形成しており、化学物質や電流がシナプスと呼ばれる神経細胞間の部位を流れることで情報を伝達している。
シナプスの中では、複数のタンパク質が組み合わさって「シナプス後肥厚部(PSD)」と呼ばれる部位が形成されている。
このPSDが、シナプスの機能を阻害し脳疾患や行動変化をもたらすとされてきた。
■多数の脳疾患や認知行動に関連
英ウェルカムトラスト・サンガー研究所(WellcomeTrustSangerInstitute)のセス・グラント(SethGrant)氏率いる研究チームは、脳手術中の患者のシナプスからPSDを取り出して分析した。
グラント氏によると、分析の結果、予想をはるかに超える130種類以上の脳疾患がPSDと関連していることを突き止めた。また、神経変性疾患の他にも、てんかんや、小児期に発達する自閉症などとの関連性も明らかになったという。
グラント氏は「人間のPSDは広範な疾患の中心となっている」と述べた。研究の成果は、診断方法の向上など、新たな治療方法の確立につながることが期待される。
また、予想外の収穫として、PSDに含まれるタンパク質が、学習や記憶などの認知行動のほか、感情や気分の発達に深く関与し、間接的な役割を果たしていることもわかったという。(c)AFP
(AFP)2010年12月20日15:27 発信地:パリ/フランス