生命保険が「経済的に追い込まれた人が自殺する原因の1つ」?
2012/10/21
関西111の市長でつくる近畿市長会が10月19日に開いた総会で、自殺対策のための財源の確保を国に求める一方で、「自殺でも保険金が支払われる生命保険の仕組みが自殺の原因の一つになっているとして国に仕組みの見直しなどの対策を求めていくことを決議」したという報道を、下に転載しました。
はてさて…?
かつては、自殺では生命保険は出なかったと記憶しています。自死遺族の経済的困窮や自殺者の増加などにより、自殺でも生命保険が出るようになっていきました。それが、また時代を逆流させられようとしているのでしょうか?
経営困難、倒産、リストラ、雇用悪化、うつ病等の増加…。収入が減り、仕事がなくなり、負債を抱え、経済困窮状態となり、せめて「生命保険で清算したい…」と自死を選択されるという悲しい事態が増えているのは事実です。身をもって、遺る家族の生活は保障したいという無念の選択です。それが実行されれば、遺族はそれなりに経済的問題からは解消されるでしょう。
その仕組みがあるから自殺が減らないという考えは、本末転倒でしょう。経済的に追い込まれなければ、自殺を選択することはないでしょうし、生活保護などのセーフティネットがきちんと機能していれば、命は守れる社会であるはずです。
自殺数削減の手段として、生命保険の対象からはずす、減額するなどというのは、およそ「自殺」の現実と向き合っていない、他人事としての発想でしかないと思います。
自治体は、自殺対策基本法(平成18年6月21日法律第85号、http://law.e-gov.go.jp/announce/H18HO085.html)に基づいて、「第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、自殺対策について、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」とする地方公共団体の責務に真摯に取り組むべきで、このようなすり替えの議論をしている場合ではありません。
また同法は、「国民は、自殺対策の重要性に対する関心と理解を深めるよう努めるものとする。」と国民の責務も明記しています。「自殺対策の実施に当たっては、自殺者及び自殺未遂者並びにそれらの者の親族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、いやしくもこれらを不当に侵害することのないようにしなければならない。」と名誉及び生活の平穏への配慮も示しています。
第二章では、調査研究、体制整備、教育・広報活動、自殺発生回避のための体制の整備、自殺未遂者に対する支援、自殺者の親族等に対する支援、民間団体の活動に対する支援などの基本的施策を明らかにしています。
あらためて基本法を読むと、今回の市長会の決議がいかに無理解で乱暴なものであるかがわかります。自殺対策は、みんなが支え合う課題です。
それでは、最近の気になる記事です。
生活保護見直し 本当に必要な人見極めよ
受給者が最多211万人(6月時点)を超えた「生活保護」の見直しが本格化する。新年度予算案の圧縮策の一つに盛り込まれ、支給基準の引き下げは必至の情勢とされるが、「初めに結論ありき」の議論は避けなければならない。
憲法25条が保障する生存権に基づく生活保護制度は「どうあるべきかと軽々しく話せない難しい問題」(城島光力財務相)である。最近、不正受給に話題が集まるあまり、受給者への偏見が助長される懸念がある。不正は少数であり、審査の甘さなど運用方法の問題は指摘されるが、生活保護の制度自体は必要だ。公平で効率的な仕組みへの改善が求められる。限度を超えた締め付けはやるべきでない。
■就労支援は政府全体で■
厚生労働省の社会保障給付費の推移をみると2000年からの12年間で、国民所得が22兆円以上もダウンしている中で社会保障給付費は31兆円以上も増えている。多くは医療費と年金。生活保護も本年度の給付見通しは3兆7千億円と少なくない。
社会保障審議会は見直しの柱を支給額改定と就労支援による自立促進に置く。長引く景気低迷で仕事のない現役世代の受給が増えている点を考慮。就労支援は自治体、ハローワークの連携で集中的に行うとした。
現行制度は労働収入があるとその分、保護費が削られる。そのため働いても働かなくても総収入は変わらず、労働意欲を失いかねない仕組みが問題視されている。見直しでは働いた収入の一部を積み立て保護の必要がなくなったときにそれを受け取るようにする。いわば貯金である。就労意欲を高め生活保護から抜け出るきっかけにする狙いだ。
だが、雇用情勢は依然として深刻でこうした就労支援が直ちに実を結ぶかどうかは大いに疑わしい。景気浮揚対策と密接に絡むので政府全体で取り組むべきとの認識が必要だ。
■低すぎる年金、最低賃金■
生活保護費は地方と都市部で差があるが現在、生活扶助費が65歳単身で月6万2千円台から8万円ほど。住宅扶助(家賃)が加算されると10万円を超える。医療、介護などの費用も給付の対象だ。
一方、本年度の国民年金は満額で月約6万5500円。最低賃金で働く賃金も地域により生活保護費を下回っている。保護費が高すぎると批判が噴き出すのも無理はない。
こうした逆転現象に、厚労省は役割の違いを強調する。生活保護は最低生活を保障するもの。年金は生活の一部であり、ほかの資産や収入、車などの所有もできるから、比較の対象にならないというわけだ。
保護費の水準に改善余地があるとしても、そもそも年金や最低賃金が低すぎるのだろう。保護費の水準までには年金保険料を倍以上にしないと届かない。25条に準じる最低賃金も、保護費が下がれば引き下げられる可能性が高い。保護費の支給水準については今月始まった審議会部会の慎重な議論を待ちたい。
■不信感あおる不正、逆転■
13年度生活保護費の概算要求は2兆9千億円。自治体分を含めると総額3兆9千億に膨らみ、4兆円の大台目前。もはや政府と与野党を交えて国会で議論すべき課題である。審議会の専門家の意見を隠れ蓑(みの)にするような逃げの手法は許されない。
かつて生活保護の母子加算が段階的に廃止されたとき、厚労省は審議会委の報告を踏まえて廃止に踏み切ったと説明した。委員からは「報告の一部をつまみ食いされた」と異論が上がった経緯がある。
不正受給や逆転現象は確かに生活保護制度への不信感をあおるものだが、「最後のセーフティーネット」と呼ばれる制度からさえも漏れている人たちがたくさんいる現実の方が重大だ。受給者は減ることはない。労働意欲を失わない保護給付のあり方を抜本改革し、本当に必要としている人たちを見極めてこそ政治主導であろう。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/37575.html
「福井新聞」2012年10月21日
●自殺対策で生命保険見直し要望
関西111の市長でつくる近畿市長会は19日に開かれた総会で、自殺でも保険金が支払われる生命保険の仕組みが自殺の原因の一つになっているとして国に仕組みの見直しなどの対策を求めていくことを決議しました。
奈良県橿原市で開かれた「近畿市長会」の総会には関西2府4県の111の市の市長らが参加し、年間3万人を超える自殺者を減らす対策を強めるよう国に求めていくことを決議しました。
このなかには、加入して3年程度の免責期間が過ぎれば自殺でも保険金が支払われる仕組みが、経済的に追い込まれた人が自殺する原因の1つになっているとして仕組みの見直しを求める、自治体レベルでは全国でも珍しい要望が盛り込まれています。
また、自殺に至る前の支援など、いわゆるセーフティネットや、全国の自治体が自殺対策を十分行える財源の確保など総合的な自殺対策を国に求めています。
近畿市長会の会長で大阪府交野市の中田仁交 市長は「自殺者がこれだけ多いというのは深刻な事態で社会全体でしっかりとした自殺対策に取り組むために全国の市長会でも要望の決議を提案していきたい」と話していました。
http://www.nhk.or.jp/lnews/kyoto/2015632711.html
「NHK ONLINE」10月19日
●生活保護の自殺者1187人=11年調査、前年比140人増―厚労省
2011年中に自殺した生活保護受給者の数が、前年比140人増の1187人だったことが17日、厚生労働省の調査で分かった。同日開かれた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の特別部会に報告した。
調査は、自殺、または自殺と推定される受給者について、全国の自治体からの報告を基に厚労省が集計した。自殺者の正確な集計を始めた09年は1045人、10年は1047人だった。
http://jp.wsj.com/Japan/node_531326
「ウォール・ストリート・ジャーナル」2012年10月18日
●父親殺害 引きこもり男に懲役12年
10年以上にわたり自宅の自分の部屋に引きこもり父親を殺害した男に対し神戸地裁は19日、懲役12年の判決を言い渡した。今年3月、兵庫県宝塚市で38歳の森川正被告が65歳だった父親を殺したとして殺人の罪に問われた裁判で、森川被告が10年以上自室に引きこもり2人暮らしの父親から毎月7万円の小遣いをもらい、近くで弁当などを買って生活していた事実などが明らかになった。弁護側は森川被告が日ごろから父親に生活態度を叱られるばかりで話を聞いてもらえなかったと背景を説明。犯行当時は脅して話を聞いてもらおうとナイフを持ち出し怒られたので刺したと追い込まれての犯行だったと主張した。判決で裁判所は悪質な犯行だが動機や経緯は同情できるとし、検察側の懲役16年の求刑に対して12年の判決を言い渡した。
http://www.ytv.co.jp/press/kansai/D2340.html
「ytv」10/19
●生活保護:厚労省の見直し案、支援団体が批判
厚生労働相の諮問機関、社会保障審議会の特別部会は17日、先月末に公表された生活保護制度の見直しを柱とする厚労省の「生活支援戦略」素案について本格的に議論を始めた。保護の申請に訪れた人を自治体が体よく追い返す「水際作戦」を巡り、受給者らの支援団体代表は「厚労省案が助長する」と指摘したのに対し、自治体代表は真っ向から反論した。同部会は年内に最終案をまとめる意向だが、意見の集約は難航しそうだ。
厚労省案のうち、やり玉に挙がったのは、働く意欲のない人について「3回目の申請から就労意欲を厳格に確認する」案や、扶養を断る親族に説明責任を課す案など。支援団体側は「ケースワーカーの恣意(しい)的判断の余地が大きくなる」と受け止め、水際作戦が広がりかねないとみている。
保護費抑制を目指す自治体の一部では水際作戦が横行しているとされる。07年には北九州市で52歳の男性が保護を受けられず、日記に「おにぎりが食べたい」と書き残して餓死した。08年のリーマン・ショック以降は厚労省が速やかな保護決定を求める通知を出したものの、支援団体への相談は後を絶たない。今年1月には札幌市で40歳代の姉妹が孤立死しているのが見つかった。市の窓口を3回訪れても保護を受けられず、「水際作戦だ」との批判も出ている。
17日の部会では、3回目から審査を厳しくする案に対し、NPO法人「ほっとプラス」の代表理事、藤田孝典氏が「何をもって就労の意思がないと判断するか」と疑問を示し、親族の扶養義務を強化する案についても申請をためらう困窮者が増えると強調した。
これに対し、お膝元で孤立死が見つかった上田文雄・指定都市市長会副会長(札幌市長)は「疑念がわかない運用を明示していく努力をしなければならない」とやや歯切れが悪かったものの、自治体側の厚労省案への評価は高く、岡崎誠也・全国市長会相談役(高知市長)は「恣意的に水際で排除することはしていない」と反論した。
最後まで意見は対立し、部会長の宮本太郎・北海道大大学院教授は「自治体の真摯(しんし)な取り組みを支援するところにポイントがある」と議論を引き取ろうとした。しかし、藤田氏は「水際作戦は厳然としてある」と引かなかった。
http://mainichi.jp/select/news/20121018k0000m010100000c.html
「毎日新聞」2012年10月17日
●飛び降り自殺:金沢・星稜高校で1年男子 同級生の前で
18日午後3時5分ごろ、金沢市小坂町の星稜高校(干場久男校長)で、1年の男子生徒(15)が校舎7階の教室に隣接したベランダから転落し、病院に搬送されたが死亡した。石川県警金沢東署は飛び降り自殺したとみて調べている。
同校の記者会見での説明によると、生徒は6時間目の授業中、携帯電話を触っていたとして授業終了直後、教師から廊下で注意を受けた。教師は指導のため職員室に2人で向かおうとしたが、生徒は7階の教室に戻り、同級生らの目の前で飛び降りたという。教室に残されたノートに成績への悩みや自殺をほのめかすような記述があったという。干場校長は「いじめの問題はなかったと考えている」と話し、県警も死亡した生徒や教師らとの間にいじめやトラブルはなかったとみている。
同校はサッカーや野球の強豪校として知られ、卒業生にはサッカー日本代表の本田圭佑選手や、野球の松井秀喜選手らがいる。
http://mainichi.jp/select/news/20121019k0000m040136000c.html
「毎日新聞」2012年10月19日
●医師大半、退職へ 札幌市児童心療センター
■医師大半、年度末退職へ
■病棟一時閉鎖も
札幌市児童心療センター(同市豊平区)の常勤の医師5人のうち、4人が来年3月末に退職する意向を示していることがわかった。同センターは子どもの精神医療で入院できる道内で数少ない施設。代わりの医師を確保できないと来年度から入院患者を受け入れられなくなり、患者や家族らに影響が出る恐れがある。
同センターによると、センターでは発達障害や神経症などを抱える子どもを受け入れている。ベッド数は60で、5日現在、46人が入院している。市立札幌病院静療院が前身で、今年4月に成人部門が分離して市立札幌病院に入り、小児部門のみで開院した。
常勤医は静療院のときの10人近くから5人に減少。このうち4人が、開業や他の医療機関に勤務するためとして退職を考えていることが8月にわかったという。入院病棟があるため毎晩1人が当直に入る必要があり、市幹部は「大学などからの応援が思うように得られず、医師への負担は重かったと思う」と、負担増が背景にあるとみている。
医療法施行規則では、現行の60床を維持する場合は3人の医師が必要で、市は北大を中心に後任医師の派遣を要請中だ。幹部は「月内にはめどをつけたい」と話すが、後任が確保できなれけば病棟を一時閉鎖する可能性もあるという。
道障がい者保健福祉課によると、道内で児童精神科または小児精神科を標榜する入院可能な医療施設はほかに3カ所。センターが一時閉鎖された場合、入院中の子どもらの転院先探しは難航する恐れがある。
市は2014年度をめどにセンターと肢体不自由児らの医療機関との統合を計画、その時点で常勤医の数が増えるという。知的障害児の通園施設、知的障害者の相談所なども併せた複合施設の整備も目指している。
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000001210090020
「朝日新聞デジタル」2012年10月06日