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        220609 生活保護受給の要介護の精神障害者がアパートを借りて住む?
        2022/06/09
         「高校を卒業後に就職。でも数ヶ月で不安と緊張から仕事に行けなくなる。仕事を変わるけど、やはり不安と緊張で退職を繰り返す。不安と緊張は、夜の静寂の中でもっとも増強されてさらに大きくなり、助けを求める…。夜中の騒ぎになるので、辿り着く先は精神科。診断名は『精神分裂病』(当時)…」


         アセスメントをすすめると、幼少期のマルトリートメント(虐待、ネグレクトなど)や神経発達症・障害(ASD、ADHD)特性、社会的スキルの獲得の少なさ、思春期課題達成の不十分さによる自己および対人関係への問題、それによる不安障害、自己肯定感情の低さ、なども、入院に至る精神症状の要因であることがわかってきます。
         このような当事者との関わりが何件かあります。中には「入院生活30年!」などの強者も。個人情報保護のために、複数の事例を加工した上での事例紹介となりますが、いずれも経過がとても類似していて驚いてしまいます。
         当時(も今も)、幻覚や妄想、支離滅裂で理解不能な言動があり、それが激しいために「自傷・他害の恐れあり」と精神科医が判断すれば強制的な入院となることが少なくありません(精神保健福祉法などの改正で、その種類や基準は変わっていますが)。
         長期の入院生活は、精神症状の改善が見られないか重篤化したことを意味します。中には、引き取る(受け入れる)家族がいないために、あるいはご自身が退院しての生活が不安であるとの主訴から超長期入院になることも…。
         日本の精神科の病床(ベッド)数は文字通り世界一多く、「全世界の精神科病床の約2割が日本にある」とも言われています。他の先進国は、人権問題として、そもそも精神科治療のあり方として問い、入院患者を減らす施策を取り組んできましたが、日本は減少傾向に転じているとは言えない状況です(約35.8万床が33.8万床になったにすぎない」(『第1回精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会(厚生労働省)』より))。民間の精神科病院が多いこと、一般病床よりも診療報酬が低いために90%台の病床利用率を確保しないと経営が困難とも言われています(病院経営関係者から聞きました)。さらに認知症高齢者を入院で受け入れるという方向も…。
         「精神障害者の退院促進支援事業」(2003年〜)、「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」(2010年〜)などが政府・厚生労働省で取り組まれてきました。2004年には「入院医療中心から地域生活中心へ」との理念を示し、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で「受入条件が整えば退院可能な者約7万人について、10年後の解消を図る」としました。が、先に記した通り成果があったとは言えません。

         合成事例に戻ります。〇十年を超える入院生活で病状が安定し(?)「退院促進」の対象となれば、地域の精神障害者を対象とするグループホーム(共同生活援助事業の利用)などで生活をすることになります。
         病院とは違い、昼間の就労や地域活動などへの参加と、自立した生活をめざす(障害福祉サービスである共同生活援助は「訓練等給付」事業とされます)「訓練」の生活に(基本的には)チャレンジすることになりますが、「ゼロからの出発」となってしまいます。
         お金がないので、生活保護の受給申請、住民票の変更、障害者手帳や自立支援医療・障害福祉サービスの受給者証の更新や住所変更、障害年金の住所・送付先変更、預貯金口座の開設や住所変更などなどの諸手続きは、最初に立ちはだかる難関です。計画相談(相談支援専門員)、グループホーム(生活支援員)、生活保護のワーカーなどの支援を受けながら乗り越えます。
         朝・夕の食事はグループホームで提供されますが、昼食は「活動先」でとなるため、「行かない日」は自分でどうにかしなければなりません。掃除・洗濯・衛生保持も支援員や訪問看護の支援を受けつつですが、限界がありますし、自立をめざすために「自分で」できるようにならなければなりません。長期の入院生活によって、こうした日常生活を送る機能やスキルが低下した状態(障害状態と言える)になっているため、高いハードルです。
         そして問題なのが、退院した時の年齢です。25歳で「発症」、入院となり、30年入院すれば55歳。還暦を過ぎて退院できた人もいます。その年齢から「自立への訓練」と言われても…です。
         そして、障害者グループホームも、要介護には対応していません。10年も暮らせば、生活習慣病はもとより、加齢に伴う機能低下が生じるため要支援・要介護になり、次の生活の場を探すことになります。
         認知症の診断が下れば、認知症対応のグループホームが数は少ないものの(地域差が大きい)無くは無いのですが、ほとんどが「空き待ち」状態。認知症が無かったり、軽度認知機能障害のレベルでは対象外となるため、考えられるのは高齢者住宅やケアホーム。こちらも「空き待ち」状態であったり、生活保護受給者が入居できたとしても小遣い(散髪、通院交通費など)はほとんど残らないため、元気な方にとっては現実的な選択肢となりません。
         Aさんは、そんな状態でした。さてどうする? で関係者の支援会議を開いても、名案は浮かびません。
         そんな状態で、本人に、さらに大きなチャレンジをしてもらって、新しい生活を始めることができる場合もあります。アパートを借りての「一人生活」です。支援会議で提案した時には、支援関係者誰もが「??」になっていましたが、本人に入ってもらって提案するとまんざらでもない様子で、一同驚き。
         とは言え、今の日本では簡単な話ではありません。生活保護受給の精神障害者に部屋を貸してくれる家主さんは滅多におられません。賃貸物件を紹介する管理会社数社にお願いして探し、見学はできたものの書類審査で、「家主さんが…」で契約できず、が続きます。諦めずに待っていると、ふっと「空きがでたんですけど…」と連絡が。
         生活困難者に部屋を貸していた実績のある家主さんで、親族の保証人と後見人等(この場合は私)付きで保障会社の審査を通り、住宅扶助費内の物件の契約成立。
         グループホーム生活が長かったことから、新生活を始めるためのお金を貯めることができていて、家具・家電品なども購入でき、人生初めての「一人地域生活」を70歳くらいで始められました。
         介護サービス(ケアプラン作成、通所デイサービス利用、訪問介護、訪問看護、通院介助)に慣れ、一人生活の様々な不安が減り、生活費(1月に1回手渡し)のやり繰りの目処が立つまでは、私を含めてあちこちの支援事業所に頻回な電話が続きました。
         同じような境遇を経たBさんは、下肢の機能低下が顕著なことから、高齢者住宅に入居して施設内で利用できるサービス以外にも(Aさんのサービスに加えて内科・精神科・歯科の訪問診療)訪問系のサービスを利用しながら生活されています。預貯金管理や諸手続きは後見人等である私が行っています。
         精神障害がなくても、加齢に伴い身体障害状態(特定疾患や身体障害者手帳所持)となったり、認知症が進行したりで、要介護となっても、在宅で生活を続けられている方もたくさんおられます。家族・親族が行えない場合には、資産管理や諸手続きの支援を後見人等として代理で行わせてもらっています。このAさん、Bさんとして紹介した事例は実際には「奇跡的」と思えますが、それで良いのでしょうか? 上野千鶴子さんが「おひとりさまの…」シリーズで書かれているように、在宅で、自分の部屋で老後を、そして最期を迎えることは、支援・サービスの工夫しだいで何とかなるものです。理解者、支援者、まわりの人は不可欠ですが。

         日本弁護士連合会は2021年10月、「全ての人の尊厳は守られなければならない。」と冒頭に書かれた「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」を発表しました。
        https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2021/2021.html

         精神障害の有無に関わらず、ご家族・お知り合いのために、そしてご自身のためにも、一度読んでおいて欲しいと思います。
         このようにして、カウンセラーとして、ソーシャルワーカーとして、成年後見人等として、関わらせてもらう中で、どのような困難な中でも生きていける方策を見つけることができることを学ばせてもらっています。