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        9 「ペアレントペンタ−」について意見を書いてみます。
        厚労省がすすめている「発達障害者支援体制整備事業」 http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/hattatsu/gaiyo.html

         自閉症、学習障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害のある人や家族に対し、ライフステージを通じた一貫した支援体制の強化を図るため、都道府県・指定都市で、ペアレントメンター(※)の養成とその活動を調整する人の配置、アセスメントツールの導入を促進する研修会などを実施しています。

        ※ペアレントメンター:発達障害者の子育て経験のある親であって、その経験を活かし、子どもが発達障害の診断を受けて間もない親などに対して相談や助言を行う人のこと。

         この「ライフステージを通じた一貫した支援体制」の必要性に視点が当たってきたことは評価すべきことだと思いますが、何せ、予算を付けずに既存の仕組みや資源を運用し、民間のマンパワーに依存しながら…という志向性は変わっていないため、理屈は良くても中身がついてこないという、これまでの(障害者自立支援法などのような)隙間・谷間の多い、痒いところに手が届かない、「専門性」をうたう所ほど専門性が疑われるなどの危惧を正直びんびんと感じるところです。
        ◇「ライフステージを通じた一貫した支援体制」をつくる上で不十分と思われる課題

         以下、思いつくままに羅列してみます。

        ・発達段階に応じて「発達障害」が正しく診断できる医師が決定的に不足したまま。

        ・DSMの改訂で「アスペルガーが消える」といった話題だけが取りざたされASD概念の組み立て直しが正しく理解されようとされていない。

        ・特別支援教育がインクルージョンを志向しているとはいえず、概ね隔離・区別の枠組みの中にHF群が入れられ、優れた能力部分の学習支援が放置され、苦手領域を何とかして「社会適応」させようとする取り組みが結構目立つ。

        ・早期発見・療育開始は基本で、乳幼児期に家族・周囲の関係者の理解と協力が得られた場合の「不適応」度合いは低くなることが臨床的にエビデンスを持ってきているにも関わらず、1歳半、3歳半、就学前の検診・スクリーニングをスルーしてしまうHF群の就学後の「不適応」状態が多く発生している実態に対応できるものになって行っていない。

        ・乳幼児期は愛着形成とともに、沢山の実用的な対人関係性や社会的スキルを日々獲得していく、かけがえのない(取り戻しのきかない)発達段階である。

        ・乳幼児期の人間発達課題に加えて、神経発達上の課題、個人の特性や能力を考慮しながらの個別の養育は、1家族、1母親に課するには荷が過大すぎるものである。療育機関や行政等、他の社会資源との連携や拡がりとの相互補完関 係の構築が不可欠であるが、そのあたりは地域差があるとともに曖昧にされていると言える。

        ・就学後は、5教科学力評価と対人関係性や社会性、注意欠如(忘れ物や指示に従えない)など、教師にとっての評価が、本人「評価」(アセスメント)にとって代わる。よって、入学後に(アセスメントのないまま)、「特別な支援 が必用な子」となってしまう。

        ・大学・大学院卒業後の就活や社会参入後の「不適応」状態は、学力やIQよりも社会生活スキルのレベルの低さによって生じることがほとんどで、学齢期における同スキルの獲得のための支援や、適職探しやオープン就労後の受け 入れ先での理解と協力を得るサポートは極めて乏しい。「発達障害者」雇用を取り組む企業は日本でまだ70数社。

        ・時々の適切な診断は支援の基本的な視軸となるが、生活レベルの支援が必用な場合、それにつながらなければただの烙印となる(手帳・年金などの経済的基盤整備には不可欠だが…)。また、医学モデルのみの「支援」が奏功するのは、限られたケースである。

        ・神経発達障害の遺伝との関係は否定できない。困難さや課題のある子どもの親が、その子と同様な親からの養育を受けてきたケースは実際にいくらでも見受けられ、「親の育て方」以前の問題である。核家族、孤立化した家族化が広まる中で、また福祉・医療・行政の支援が薄い(地域差の大きさも)中で、家族の支援、家族支援の役割・必要性を強調しても、それが実施・奏功する家族は稀な存在であろう。

        ・自閉症スペクトラム特性のある子どもへの支援において、家族が担うべきところが大きいことは確かであるが、その家族への「心理教育」(この言葉が適当かどうかは疑問)や多角的な支援、家族支援を行う「専門家」(そんな人はこれまでいなかった)養成・スーパーバイズなど、メンター制度を謳う前に準備しておくべきことが山積した状態での「事業」化は賭博のようなものである。

        ・親が年金生活に入る頃から、本人の残りの人生の生き方がさらに切実な問題となる。それ以前にも自己評価やトラウマなどとの闘いは続くが…。この段階を迎えても「ペアレントメンター」や家族による支援と言われ続けるのであろうか? 現在の生活保護問題などと合わせて、課題の先送りでしかない。

        ・厚労省が想定しているメンター像は、ある種「成功例」者であり、ごくわずかな「うまくいった」ケースの人ばかりが「なり手」を希望しないか、という疑念もある。個人的には、もっとやわらかく包容していける「親の会」などの拡がりと運営支援(財政的及び専門的知見・経験からのサポート)に力を入れるべきだろうと思う。(現行の会は、独自性や個性が強いところも多いが、医療機関スタッフが立ち上げや運営に協力しているモデルケースも少なくない)

         また、ペアレントメンターが直面する支援課題の想定がどのレベルで行われているか、という問題があります。
         私が、放送大学修士論文(※)の「考察」でまとめた「5つの器」の3つ目が家族に関するものですが、他の4つとも、家族の気づきや情報収集、背中押し、意欲の維持など、家族の関係性に依拠するところが大きく、そこは相互補完関係の重要さだろうと思います。
         特に、聴き方、受容の仕方、障害特性と本人特性の学びと理解、トラウマや体験によって構成された認知スタイルや行動パターンによって生じる「不適応」への対応、集団への参加とメタ認知などの獲得、社会資源や制度・サービスなどとのつながりなど、社会福祉や心理・精神医療などの知識(つなぐ知識)や実践は、医療・福祉現場などで実際に関わっている者にとってもハードルの高いものだと思います。

         0歳〜5歳=乳幼児期に発達段階に応じた社会的(日常的、対人的、生活面の)スキルを一定レベルで獲得しておくことができると、小学校入学後に「不適応」な状態にならなくて済む確率を上げると言われています。乳幼児期の愛着形成、(一般的に言われる)「しつけ」、同・近年齢集団での遊びを通した関係性などの獲得は、この発達段階でこそできる課題で、一人ひとりの特性に早期から気づきながら、適切なサポートが多様な資源を使って提供できることが大切です。これらを、親の課題、家族の役割…としてしまうことは課題の「自己責任化」意識を強めることになってしまいます。

        (※)修士論文:「自閉症スペクトラム(ASD)特性のある成人へのスキル獲得レディネスの発達の視点による、段階・状態別のサポート事例に見る有効な支援と課題」

        第5章 考察

        1.相談支援面接(カウンセリング面接)の有効性と課題

        2.集団的スキル・トレーニングの有効性と課題

        3.家族の学び、理解、関係性への支援の必要性

        4.トラウマ処理と自己評価を高める個別及び集団的支援の併行アプローチの必要性

        5.就学・社会生活・就労を緩やかに支援する医療と連携した豊かな福祉的支援の必要性