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        23 「薬で何とか…」の精神医療の課題は多いけど
         東大医学部附属病院精神神経科の近藤伸介助教らの研究チームが、三鷹市の社会福祉法人「巣立ち会」と共同で、精神科病院の長期入院を経て退院し、地域生活に移行した利用者254人を追跡調査し、精神疾患を有する人の平均余命が一般人口に比べて、20年以上短いことを明らかにしたとの報道を目にしました。

        精神疾患持つ人の余命20年以上短い – 東大病院研究チームが明らかに
        8/10(木) 20:00配信 「医療介護CBnews」
        https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170810-20000000-cbn-soci

         私が保佐人(成年後見制度の類型の1つ)をさせてもらっている方(被保佐人)が今年60代後半で亡くなり、文字通り「20年以上短い」人生を精神科病院で終えました。
         高血糖、糖尿病、深部下肢静脈血栓など、長期入院の中で、特に循環器系の内疾患が進行し、循環不全→多臓器不全という死因となりました。
         一時期、地域のグループホームで生活されていた時期に出会い、階段乗降時に意識低下で落下、意識不明で救急搬送、数日で打撲のみで退院となったものの、階段上(二階)に居室のあるグループホームに戻れなくて、長期入院していた精神科病院に入院し、次の生活の場を探すことも含めて成年後見制度利用となりました。
         精神科の診断名は、よくある「統合失調症」。ユニークな発想をされ、思ったことをズバッと言われ、どこか超越したところはありましたが、その病名の症状を感じたことはありませんでした。
         むしろ、血糖値の管理や、小刻み歩行、座っていても右へ傾く傾向、よく転ける、よくむせるなどの身体機能の低下・悪化や、買い物・収集癖、早食い(よく嚼まずに飲み込む)、長期の精神病薬の副作用・神経機能へのダメージを心配していました。
         結果、就任1年余りで、あっけない「老衰」死の事後対応をすることになりました。

         保佐人として、お金の管理はもとより、身上監護を担う者として、(少なくとも)この最後の入院生活が医療的に妥当なものであったかどうかを、自ら問い、可能な検証をするべきと思い、入院先の病院へ医療情報の開示請求をし、家庭裁判所への最終(終了)の報告に添えました。
         以下、その概略です。

        ーーーーーー

        ○○病院 様
        2017年 ○月 ○日
        連絡事項:医療情報の提供依頼

         ○月○日、○病棟にてご臨終になりました○○○○様の保佐人:木下です。
         長期の入院療養では大変お世話になりました。
         逝去後は○○(相続親族)、保護課等と相談しつつ、○○を喪主として会葬を伴わない火葬のみの葬儀を、地元で最も安価な業者に委託し執り行い、○○の所属する教会にて親族および関係者の偲ぶ会が営まれました。葬祭費用は、遺留財産(預金20万円余り)と病室に残された6千円余り、病棟からの荷物引き取り時に捜索し見つけ出した封筒に入った1万円と1万5千円にて奇跡的に支払うことができました。

         私は家庭裁判所から選任された保佐人として、○○様の資産管理と身上監護の任を担っております。
         死亡後の相続を含む最終報告をして事実上の解任となります(現在は死亡後処理の緊急対応として6ヶ月間の継続任務にあたっています)。
         ○○様は、平成○○年にグループホームに入所し7年間ほどの地域生活をされましたが、それ以前の20年強と、平成27年○月に○○病院(総合病院)から転院して以降は、貴院にて療養生活をされていました。
         地域生活時には、障害福祉サービスを利用して、共同生活援助(グループホーム)、生活訓練(○○事業所)通所を行い、精神疾患以外の内疾患については糖尿病等について専門外来等への通院をしていました。また、この時期には要介護認定を受けて介護保険サービス利用も行っていましたが、入院と共にこれら専門外来通院、サービス利用が停止しました。
         身上監護を任とする保佐人として、平成28年○月○日以降の医療・介護等について適切な対応ができていたかどうかの検証を自ら行い、裁判所に報告することになります。
         この度の6○歳での死亡に当たり、貴院で記された死亡診断書では、Ⅰ:(ア)直接起因「多臓器不全」(○日)、(イ)(ア)の原因「循環不全」(○日)、Ⅱ:Ⅰに影響を及ぼした疾病名「糖尿病」(30年2ヶ月)とあります。また、深部静脈血栓症等との診断も受けたことがあるとも聞いております。
         死亡直前の主治医からは、「様々な病状が急激に悪化し、老衰と考えて良い状態」等と説明を受けましたが、6○歳での「老衰」は一般的なものではありませんので、裁判所への説明が必用と判断しました。これら死因に関する病状に関して、どのような医療的ケア等が行われてきて、それらが適切であったのかどうかをふり返る必用があります。

         他に成年後見人等を受任し死亡に至ったケースや、障害や症状が継続することになったケース等でも、必用と判断した場合には他の医療機関(○○病院、○○病院、○病院、○○病院等)に情報提供(カルテ、治療・療養経緯説明、レントゲンや内視鏡画像等)を求めてきました。また、いわゆる「困難ケース」等に関しては基幹相談支援センター等が開催するケース会議等に参加し、他医療機関(○○病院NSW、○○NSW、等)、行政(障害福祉担当)、居宅介護サービス事業所、相談支援事業所、保健所(特定疾患等のある場合)、訪問看護、訪問診療医、乙訓消防本部(救急要請が頻回な場合等)等と情報共有しつつチーム支援に取り組んで頂いて来ております(貴院に対して参加要請がされた場合に貴院からの参加がこれまで無かったことを残念に思っています)。

         ○○様の循環不全、糖尿病等内疾患に関して、貴院入院中の治療・看護情報の開示を書面で提供いただきますようお願い致します。裁判所への報告期限がありますので、○月中での開示にご協力願います。開示に必用なコピー代等は、当方にて負担させて頂きます。

         今後とも宜しくお願いします。

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        <家裁への報告(上申書)>
        京都家庭裁判所 後見センター 様
        2017年○月○日
         故○○様の保佐人をさせていただいていた木下です。

         ○○様の身上監護に関して、別紙の通り、最終入院先となりました○○病院での療養経過について、本年○月○日付けで同病院に医療情報の開示請求を致しました。

         病院からは同○月○日に開示が行われ、私なりに精査を致しました。要点は以下の通りです。
        ・直接死因の多臓器不全についてはその通りです。
        ・その原因となる循環不全および影響を及ぼした糖尿病については、開示請求対象期間当初より既往症状として医療的対応がされていますが、血糖値の変動に対する対処に終始したと思われます。
        ・「原因不明の貧血」による転倒などが頻回にあり、中等度貧血、起立性低血圧の疑い、一過性の意識レベル低下等のカルテ記載がありますが、本年○月○日の血液検査から「鉄(fe)」が検査項目に加わり、基準値以下の数値が出ていますが、取り立てて対処された記録はなく、鉄欠乏性貧血に対しての疑い(○月○日に記述)や処置が行われないまま、頻回な転倒によるダメージが加わっていったと思われます。
        ・○月○日に急に向精神薬中止とされました。向精神薬の急な減薬・断薬は離脱症状や悪性症候群を引き起こす可能性が高いために、通常は期間をかけて微減していくものです。そのリスクを冒してでも断薬すると判断されたものと思われますが、それ以前に向精神病薬の継続投与の必用があったのかどうか疑わしいところです。カルテをみる限り、向精神病薬を必用とする精神症状があったわけではなく、年齢や今回死因となった内疾患症状を考えれば、早期から減薬していくべきだったであろうと推量されます。

         精神科長期入・通院、精神薬長期投与の患者への多剤・大量投与や長期入院が問題視されるようになってきていますが、○○様はまさしくその見本のような方でした。
         精神疾患に関しては特に、漫然とした(医療まかせの)身上監護にとどまる事無く、連携しつつも全人的な機能維持や回復をめざした後見等の活動を行う必用性を痛感させられました。

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         こんな感じで、福祉専門職職業成年後見人として、司法が精神科医療の課題を理解して行ってほしいと願いつつ、地味な取り組みをしています。